息長(おきなが)
石上神宮
『石上神宮(いそのかみじんぐう)』は奈良県天理市布留町にある神社です。
主祭神は『布都御魂大神(ふつのみたまのおおかみ)』であり、御神体として『布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)』も祀られています。
●画像引用 Wikipedia
布都御魂大神
石上神宮の主祭神である『布都御魂大神(ふつのみたまのおおかみ)』とは、日本神話に登場する霊剣『布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)』に宿る『御霊(みたま)=神霊』のことです
布都御魂剣とは、日本神話の武神『建御雷神(たけみかずちのかみ)』が、『葦原中国(あしはらのなかつくに)』を平定する際に使用した『十束剣(とつかのつるぎ)=日本神話の長剣』のことです。
強力な霊威を宿した剣とされ、神武天皇の東方征服作戦――いわゆる『神武東征』の際にも使用され、戦争の勝利に貢献したという伝承も残っています。
●画像引用 石上神宮公式サイト
天之御中主神(左)
ブフラマー(右)
天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)は、日本神話の天地開闢の神であり、『古事記』においては最初に登場します。
両部神道を代表する書物『大和葛城宝山記』によると、天之御中主神は『梵天』が生んだ8柱の神の1柱とされ、別の場面では梵天、あるいは梵天を生んだ神『違細(ヒンドゥー教のヴィシュヌ)』と同一視されました。
梵天とは、ヒンドゥー教における創造神『ブラフマー』であり、宇宙の根本原理である『ブラフマン』を人格神化した存在と考えられています。
また、ヴィシュヌはヒンドゥー教の最大の宗派『ヴィシュヌ派』の世界観において、ブラフマンを超える『パラ・ブラフマン(至高原理)』とされています。
そういう意味では、天之御中主神は『宇宙の太神』というに相応しい神格といえるでしょう。
●画像引用 歴史の憧憬、Wikipedia
今回は、神道(しんとう)に伝わる呼吸法『息長(おきなが)』について紹介したいと思います。
これは、本ブログにとって初めての神道系のネタでもあります。
ブログ『𒀭Sky Oracke』の構成上、本記事は(神道の儀式が元になっているので)『魔術』のカテゴリーに分類していますが、呼吸法だけなら健康法の一種として考えることもできるでしょう。
神道家である故・中川正光氏(鐡砲洲稲荷神社の先代宮司)の著書『神道の呼吸法―息長と禊祓』によると、『息長』の呼吸法は『鎮魂(みたまふり)』という神道儀式の所作の1つとして実践されていたとか。
つまり、『息長』とは邪気を祓い、人体の『氣』を整えて心身を健康にする呪術(鎮魂)を構成する技法の1つであり、また、それができる力があると考えられていたようです。
現在(2020年10月時点)、『息長』でネット検索すると、『忍者の呼吸法』というタイトルが出てくることもありますが、同著書によると元々は神道由来だとか。
忍者の修行法には、密教や陰陽道などに関連する儀式なども取り入れられていた〈注1〉ので、おそらくこの見解は正しいと思われます。
忍者が特に活躍した室町時代~戦国時代は、宗教的には『神仏習合』の世界観が主流であり、彼らが心の拠り所とした呪術体系もバラエティ豊かなものだったでしょう。
先述した通り、本記事では『石上神宮(いそのかみじんぐう)』にて伝承されてきたという『鎮魂』の一部――『息長』の呼吸法のみを抜き出してお伝えします。
『鎮魂』の儀式は一般人から見てかなりの手間がありますが、呼吸法だけならとても簡単です。
では、さっそく見てみましょう。
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■『息長』の呼吸法
『息長』は仏教の行法ではないので、(神道系のスタイルにこだわるなら)この呼吸法を行う際の座法は結跏趺坐ではなく正座となります。
ただ、ここで話題にしているのは『鎮魂』の儀式全体ではなく、あくまで呼吸法だけなので、これのみを実践する際には結跏趺坐でもよいでしょう。
※古代インドの修行法に由来する結跏趺坐は呼吸法に適した姿勢です。
呼吸の手順は以下の通りです。
①息を深く吸い込む。
②息を鼻からゆっくり出す。
この時、体がなるべく動かないよう(姿勢正しく)静かに息を吐くことが望ましい。
③上記の呼吸法を3回繰り返す。
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『神道の呼吸法―息長と禊祓』に書かれた呼吸法の部分はこれだけです。
吸気については鼻・口の指定はありませんでしたが、基本的にこの呼吸法は吸気・呼気共に鼻呼吸だと考えてよいでしょう。
難しいことは何もありません。
ただ……1つ注意点があります。
「ゆっくり息を吐く」と同著書には書かれていたのですが、この時間が「(1回につき)短くとも40秒」とのことです。
慣れてくれば、1回の呼吸で1分以上吐き続けることはできますが、呼吸法の初心者がいきなり鼻で40秒吐き続けるのはかなり難しいでしょう。
『息長』を実践しようと思うなら、最初は10秒前後の短い時間の鼻呼吸(鼻で大きく息を吸い、同じく鼻で10秒ほど息を吐き続ける呼吸法)から始めることをおすすめします。
年齢にもよりますが、肺など身体に病気を抱えていない健康な人であれば、毎日続けることで必ず40秒(鼻で)息を吐き続けることはできるでしょう。
呼吸の回数については、『鎮魂』の儀式の一環で『3回』となっているだけなので、単純に訓練法として『息長』を考えるなら、自分で回数を決めても問題ないと思われます。
古代インドの修行者は、上記の『息長』よりもさらに厳しい呼吸法を行っていたと思われますが、一般人が実践するには『息長』でもハードルが高いでしょう。
(宗教とは関係がない)ボイストーニングでも、30秒以上息を吐く練習をやらされる場合がありますがね。
※こちらは鼻呼吸ではありませんが。
『神道の呼吸法―息長と禊祓』では、『息長』は、自分が『大宇宙の太神(かみ)』の現れであることを自覚しながら実践すると書かれていました。
著者の中川正光氏は、『大宇宙の太神』が日本神話におけるどの神かは具体的には言及しませんでした。
単に宇宙を汎神論的な意味での太神として表現しただけかもしれませんが、このスケールの神を日本神話の神に無理やり当て嵌めるなら、始原神である『天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)』が妥当でしょうか……。
ヒンドゥー教系の解釈であれば、この太神は『ブラフマン(宇宙の根本原理)』、密教系の解釈であれば『大日如来(宇宙の真理そのもの)』と言い換えることもできるでしょう。
『息長』に限りませんが、長く息を吐く呼吸法を実践していると、誰でも自然に体が熱くなっていき、エネルギーが湧き上がってくるような感覚をおぼえることがあるでしょう。
上記の理由について、科学的にもっともらしい理屈を並べることはできますが、オカルト的な観点でこれを考えるなら、より長く息を吐くことで、宇宙の根源的なエネルギーとされる『氣』をより多く練れるからかもしれません。
こう考えるなら、『息長』のような呼吸法が神道の儀式に取り入れられた理由もわかるような気がします。
※『氣(気)』だけに…… ☆(・ω<)
参考・引用
■参考文献
●神道の呼吸法―息長と禊祓 中川正光 著 六然社
●日本宗教史 末木文美士 著 岩波新書
●ヒンドゥーの神々 立川武蔵・石黒淳・菱田邦男・島岩 共著 せりか書房
■参考サイト
●Wikipedia
●ニコニコ大百科
●ピクシブ百科事典
●コトバンク
●goo辞書
●石上神宮公式サイト
●ピラテス
●歴史の憧憬
●てんしょー寺
●物部神社ホームページ