Hitler's Brain(ヒトラーの脳)
Hitler's Brain
𒉡画像引用 STEVE JACKSON GAMES
ハーケンクロイツ
『ハーケンクロイツ(ドイツ語: Hakenkreuz)』は、鉤十字のドイツ語であり、ナチスのシンボルです。
ヒトラー曰く「ハーケンクロイツはアーリア人種の勝利のために戦う使命を表している」と説明しているそうです。
上記の主張がなされたのは、当時のドイツにおいて『卍(鉤十字/まんじ)』が、アーリア人――この場合はインド・ヨーロッパ語族という意味――のシンボルとして見なされていたからだといわれています。
実際には、『卍』はメソポタミアやインダス文明などの遺跡、さらにはアフリカや南アメリカの文明でも確認されていたので、インド・ヨーロッパ語族だけのものではありませんでした。
𒉡画像引用 Wikipedia
アドルフ・ヒトラー
アドルフ・ヒトラーは、よくも悪くも第2次世界大戦の中心人物でした。
彼は極端な人種主義の思想を持っていただけでなく、オカルトにも傾倒していたといわれ、ナチスに纏わる様々なオカルトな話が伝えられています。
𒉡画像引用 Wikipeida
"No, it's not exactly alive but it's not dead. And we can feel its dreams..."
Was he Illuiminated himself? You're not cleared for that.
But the evil brain lies plotting, twisting the souls around it...
「いや、正確には生きてはいないが、死んでいるわけでもない。そして、私たちはその夢を感じることができる...…」
彼は自身を啓発したのか? それはわからない。
しかし、邪悪な脳は陰謀を企て、周りの魂を捻じ曲げている…...。
前回では、イルミナティカード『Hammer of Thor(トールのハンマー)』がネオナチ(的団体)と関係していることについて言及しました。
上記の話を受け、『その2』では『Hitler's Brain(ヒトラーの脳)』のカードを紹介したいと思います。
カードには、頭蓋から取り出された脳がカプセルに保存されているという不気味な絵が描かれています――ナチス・ドイツを率いた独裁者『アドルフ・ヒトラー(ドイツ語:Adolf Hitler)』の脳がこのような状態になっているということでしょうか。
各書籍やネットを探せば、そのような都市伝説を発見できるかもしれませんが、実はもっと質の悪いことを暗示しているのかもしれません。
このカードについて思想的な意味で解釈するなら、『ヒトラーの脳⇒ヒトラー的思想』を持った者たちの登場を予言しているとも考えられるでしょう。
第2次世界大戦において、ナチス・ドイツが敗北した後も、その思想を信奉する者たち――ネオナチが現れました。
しかも、その数は減少するどころか、現代でも増加し続けているようです。
では、ナチスの思想『ナチズム〈注1〉』とは一体なんなのでしょうか。
ナチズムとは「民族を軸に国民を統合しようとする国民主義(ナショナリズム)と、マルクス主義や階級意識を克服して国民を束ねる共同体主義を融合したものである」と考えられているそうです。
各学者によってナチズムの定義は異なるかもしれませんが、少なくとも、民族という観念が重要視されていることは間違いないでしょう。
ナチズムの特徴としては『アーリア主義(アーリア人種至上主義)』と『反ユダヤ主義』が挙げられます。
ここで語られる『アーリア人』とは、現代において定義されるアーリア人〈注:詳細は後述〉ではありません。
19世紀に唱えられた『アーリアン学説』に影響された考え方であり、『アーリア人=白色人種(白人)』という観念が強いものだったのです。
こう言ってはなんですが、ナチスを構成する要素の1つ――『白人至上主義』は、ナチスが台頭した時代において西欧に広く浸透しており、ナチスの専売特許ではありませんでした。
前述した通り、ナチス的な思想は過去のものではなく、増加していると考えられています。
新自由主義・グローバリズムなどを掲げる現代の資本主義は、必然的に貧富の差を生み出し、社会の低層を中心に不満・嫉妬・憎悪などの『負の感情』を際限なく積み上げています。
そうした情念の捌け口として、過激な組織に共感を示す人々がいることは容易に想像できるでしょう。
(善悪はともかく)彼らには、例え暴力を用いてでも、悪化する自分たちの現状をなんとかしたいという気持ちがあるのです。
1933年1月にアドルフ・ヒトラーがドイツの首相に任命された際、多くのドイツ国民は彼こそ国家の救世主になると信じていたそうです。
そう思われたのは、ナチスがヒトラーを救世主的なリーダーとして演出するプロパガンダを行ったことが理由でしょうが、実際(政権初期の頃の)彼はどん底だったドイツの経済を復活させました。
一時の彼は、ドイツ国民の期待に対して見事に答えたというわけです。
結果的にヒトラーは敗北したので、現代まで『悪の権化』とされるようになりましたが、もし、彼が極端な人種差別的な政策を実施しなかったら、そして彼が――アレクサンドロス大王の如き――いにしえの英雄を彷彿とさせるような軍事的才能を示していたら、どうなったでしょうか。
ヒトラーは連合国相手にも勝利し、近現代史における『不世出の英雄(あるいは救世主?)』として歴史に名を遺したかもしれません。
※神ならぬ人間が、そこまで卓越した――ラインハルト・フォン・ローエングラム(銀河英雄伝説の主人公)のような――政戦両略の才能を持つことは難しいでしょうが……。
ネオナチのような過激な思想に期待する人々は、現代において英雄を求める気持ちも、少なからず持っていると思われます。
時代錯誤にも感じられることですが、庶民の生活が個々人の努力ではどうにもならないほどに行き詰った時、自分たちを救ってれくれるような傑物の出現に期待してしまうのは、無理もないことでしょう。
これから世界の混迷が深まった時、『ヒトラーの脳』を持った者たちが表舞台に出る可能性も考えられます。
それは現代の資本主義・民主主義が限界に達し、『暴力の時代』に突入することを意味します。
そんな時代において、我々はどのような生き方を選択するのでしょうか……。
【注釈 1】
■注1 ナチズム
『ナチズム(英語: Nazism|ドイツ語:Nationalsozialismus/ナツィオナールゾツィアリスムス)』――正式名称:Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei (ナツィオナールゾツィアリスティシェ・ドイチェ・アルバイターパルタイ)――の和訳としては『国家社会主義』『国民社会主義』『民族社会主義』などがある。
アーリア人という概念
インド・ヨーロッパ語族の分布
アルテュール・ド・ゴビノー(左)
ヘレナ・P・ブラヴァツキー(右)
𒉡画像引用 Wikipedia
根源人種
ヘレナ・P・ブラヴァツキーが説いた7段階の『根源人種(Root race/ルート・レイス)』は、各書籍やサイトにより内容が異なる部分もありますが、簡単な解説については『神智学(Wikipedia)――歴史観・世界観・人間観』に載っています。
神智学では、第1の根源人種は肉体や性別がないアストラル(またはエーテル)的な存在とされ、進化の段階が進むごとに、次第に現生人類のような姿になっていったと説明されています。
科学における進化論が必ずしも正しいとは思いませんが、この種の説もどこまで真に受けてよいのか判断が難しいところです。
ただ、19世紀末~20世紀前半頃までの西欧において、神智学――あるいは神智学と類似する思想――が隆盛していたことは、当時の社会状況を知るうえでの参考にはなるでしょう。
本記事のテーマに関係あることとしては、ここでは『第5根源人種(アーリア人)』についてのみ焦点を当てたいと思います。
ブラヴァツキーは、この根源人種について次のように語っていたそうです。
現在のアーリア人は、黒褐色・ほぼ黒色・赤褐色・黄色・そして最も白いクリーム色まで様々であるが、全て同じ系統――すなわち第5根源人種であり、アトランティス大陸が沈んだ際に生き残ったといわれている1人の祖先から生まれたのだ。
つまり、ブラヴァツキーは(白人のみならず)人類全体を『アーリア人』と呼んでいたと思われますが、その一方で、人種差別的な発言も残していました。
例えば、「一部のセム族は霊性において退化している」、あるいは「レムリア人の子孫である一部の民族は半動物的な生き物である」と断言していたそうです。
※後者には、オーストラリア系の民族などが含まれます。
当時の白人至上主義的な風潮を考慮に入れると、ブラヴァツキーとしては「白人こそ理想的なアーリア人(=理想的な人間)である」という見解を持っていたのかもしれません。
𒉡画像引用 GLORIAN
アドルフ・ヒトラーおよび彼が率いたナチスは『アーリア主義(アーリア人種至上主義)』を掲げたといわれています。
その思想は、現代のネオナチにも引き継がれ、イルミナティカードにもその象徴が見え隠れしています。
そこで、次のイルミナティカード――アーリア主義関係のもの――を紹介する前に、アーリア人という存在について考えてみたいと思います。
英語に借用された『アーリア人(Aryan)』の由来は、サンスクリット語の『アーリヤ(ārya)/意味:高貴な』であり、これは古代イランにおけるアヴェスター語の『アイリヤ(airya)』と語源が同じです。
元々のアーリア人は中央アジアに居住していた人々とされ、それがインド亜大陸(南方)・中央ヨーロッパ(西方)・中国西部(東方)まで拡大していったと考えられています。
古代において、アーリア人という概念が主張されたのはイランとインドであり、『アヴェスター(ゾロアスター教の聖典)』や『リグ・ヴェーダ(バラモン教の聖典)』でもこの言葉が言及されています。
このような背景があるため、インド・ヨーロッパ語族の中でもインド・イラン語派に属する人々が(広義の)アーリア人〈注2〉とされています。
ただ、ここで言われるようなアーリア人とは『文化的・宗教的・言語的な意味合い』の方が強く、特定の民族や人種を指すものではないという説もあるようです。
※もちろん(インドの場合で言うなら)征服者(アーリア人)と被征服者(古代インドの先住民)の区別はあったでしょうが。
もっとも、上記の話は現代の学説であり、19世紀~20世紀前半においては、そのような考え方は主流ではありませんでした。
前述した通り、この時代はアーリアン学説が西欧人(特にイギリスとドイツ)の間で広まっていました。
この学説におけるアーリア人とは、イランやインドなどの限定された範囲ではなく『インド・ヨーロッパ語族を使用する民族』を指すようになりました。
白人至上主義を提唱した小説家『アルテュール・ド・ゴビノー(Joseph Arthur Comte de Gobineau)』は「アーリア人は白色人種の代表的存在であり、主要な文明は全て彼らが作った」と主張しました。彼の思想はヒトラーとナチズムに大きな影響を与えたといわれています。
このようなアーリアン学説は、オカルトの世界にも影響を与えました。
近代神智学の創始者の1人である神秘思想家『ヘレナ・P・ブラヴァツキー(Helena Petrovna Blavatsky)』は、アーリアン学説を取り入れたのです。
ブラヴァツキーはその著書『シークレット・ドクトリン』において、人類の進化を(未来の分も含めた)以下の7段階に分けました。
●第1根源人種――ポラリアン(Polarian)
●第2根源人種――ハイパーボリア人(Hyperborean)
●第3根源人種――レムリア人(Lemurian)
●第4根源人種――アトランティス人(Atlantean)
●第5根源人種――アーリア人(Aryan)
●第6根源人種――未来人
●第7根源人種――未来人(完全にスピリチュアル的な存在)
これらは『根源人種(Root race/ルート・レイス)』と呼ばれています。
彼女の説によると、現代の人類はアトランティス大陸にいた『第4の根源人種(アトランティス人)』から進化した『第5の根源人種』という段階であり、それがアーリア人だとされています。
※なお、神智学では、やがてアーリア人を超える『第6』『第7』の根源人種が誕生するとされています。
当時の西欧の世相を反映してか、ブラヴァツキーにも人種差別的な意識はあり、彼女の思想がアーリア人中心の考え方だったのは間違いないと思われます。
オーストリアやドイツにて、この神智学とアーリア=ゲルマン人種至上主義が広まると、両者が結びついて『アリオゾフィ(アーリアの知恵/叡智)』という、アーリア人種至上主義を神智学の世界観で再解釈した思想が生まれました。
この思想は『グイド・フォン・リスト(Guido Karl Anton List)』や『イェルク・ランツ・フォン・リーベンフェルス(Jörg Lanz von Liebenfels)』などによって提唱され「アーリア人こそが神人である」とまで主張されたそうです。
19世紀後半から始まったアーリア人種至上主義の流れは、こうしてオカルト的な人種論に展開し、ナチズムを生み出す源流になったとも考えられています。
アリオゾフィを取り入れた結社としては『トゥーレ協会』がよく知られており、これはナチスとも関係があったといわれています。
アーリア人種至上主義の他に、トゥーレ協会のようなオカルト結社の思想もまた(前章で述べた)『Hitler's Brain(ヒトラーの脳)』の一部を構成しているのかもしれません。
そこで、次回はイルミナティカード『トゥーレ協会』を取りあげ、このカードに秘められたアーリア主義を探っていきたいと思います。
それは、現代においても重要な意味を持つ可能性があります。
学問の世界はともかく、『ある人々』の心の中には、その思想はまだ生きているのですから。
【注釈 2】
■注2 インド・ヨーロッパ語族の中でも特に『インド・イラン語派』に属する人々が(広義の)アーリア人
狭義のアーリア人は諸民族に分裂する以前のイラン・アーリア人、広義のアーリア人はそこから分裂した以下の人々と考えられている。
●タジク人
●北インド諸民族
参考・引用
■参考文献
●アーリア神話 レオン・ポリアコフ 著 アーリア主義研究会 翻訳 法政大学出版局
●アーリヤの男性結社―スティグ・ヴィカンデル論文集
スティグ・ヴィカンデル 著、前田耕作 編集、 Stig Wikander 原著、檜枝陽一郎 訳、与那覇豊 訳、中村忠男 訳 言叢社
●エッダ―古代北欧歌謡集 谷口幸男 翻訳 新潮社
●いちばんわかりやすい 北欧神話 杉原梨江子 監修 じっぴコンパクト新書
●実用ルーン占い ルーン魔女KAZ 著 出版処てんてる
●ルーン文字入門 無極庵・くじら神殿
●RUNELORE Edred Thorsson 著
●シークレット・ドクトリンを読む ヘレナ・P・ブラヴァツキー 著 東条真人 翻訳 トランス・ヒマラヤ密教叢書
●北極の神秘主義 ジョスリン・ゴドウィン 著、松田和也 翻訳 工作舎
■参考サイト
●Wikipedia
●WIKIBOOKS
●Wikiwand
●Weblio辞書
●ニコニコ大百科
●ピクシブ百科事典
●コトバンク
●goo辞書
●RollingStonejapan.com
●henrymakow.com
●Dorinda Balchin
●ルーン文字
●バラティヤ・ダルシャン
●ホロコースト百科事典
●Theosophy World