インド神話の核兵器(?) その6 旧世界のカタストロフィー

アーリア人が思い描いた2つの神界

ツァーリ・ボンバの核爆発

 ツァーリ・ボンバは、旧ソビエト連邦が開発した水素爆弾(水爆)です。

 人類史上最大の水爆であり、広島型原子爆弾リトルボーイ』の約3300倍の威力があるといわれています。

 核実験に当たっては、50メガトン(本来の約半分)まで爆発の出力が制限されたにもかかわらず、その衝撃波は地球を3周したそうです。 

 インド神話に登場する超兵器には、ツァーリ・ボンバの如き威力を思わせるものも登場します。

 単発ならまだしも、このような兵器が世界中で多用されたとしたら……。 

 

●画像引用

Sploid (All The Largest Nuclear Explosions In History)

ゾロアスター教開祖 ザラスシュトラ

●画像引用 Wikipedia

アエーシェマ

 アエーシェマは、ゾロアスター教に登場する悪神の1柱です。

 『アーリヤの男性結社』の著者であるスティグ・ヴィカンデルによると、「血染めの夜祭りを祝う陶酔的なハオマ儀礼を特徴的に示す語が、アエーシュマ(酔乱)である」とか。

 

 古代イランにおけるアーリア人の戦士たちは、『デーヴァ=ダエーワの神々』に対し、貴重な資産だった牛を生贄として数多く捧げていました。

 儀式の際には、ハオマを飲んで酩酊状態になりつつ生贄の牛を屠っていたそうです。

 ゾロアスター教において、その光景は野蛮で邪悪な儀式としてとらえられたのです。 

 「血塗られた梶棒を振るう」狂宴は、アーリア人の戦士社会を支えた暴力的な男性結社の典型的な風習であり、アエーシェマはその象徴ともいえます。

 

 なお、アエーシェマは西洋の悪魔『アスモデウス(アスモダイ)』のルーツといわれています。

 

●画像引用 pinterest

 『インド神話の核兵器(?)』シリーズでは、インド神話におけるいくつかの超兵器を紹介しました。

 このシリーズで主題となった『アストラ(サンスクリット語:अस्त्र/astra)』という兵器は、紹介したもの以外にもまだまだたくさん種類があるのですが、今回は特に威力が高いものだけを扱いました。

 紹介し切れなかった分は、いつか機会を改めて記事を書きたいと思います。

 

 さて、ここまで長い記事をお読みいただいた方は、ある疑問が浮かびませんでしたか?

 そう、インド神話の神や英雄たちが使用してきた数々の超兵器は、威力があり過ぎるのです。

 こんな兵器をばんばん使用していて、地球環境は大丈夫だったのかと考えませんでしたか? 

 インド神話において、そうした環境問題について具体的に語った記述は少ないですが、別の神話では詳細に書かれました。

 それが『ゾロアスター教の神話(イラン神話)』です。

  ただ、この話をご理解いただくには、前提となる知識が必要になってくるので、先に以下の話を説明したいと思います。

 

 インド神話(バラモン教ヒンドゥー教の神話)とゾロアスター教の神話には、密接な関係があります。

 両者は共に『インド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派の人々=(狭義の)アーリア人』の神話となるのです。

 つまり元々は同じ民族であり、同じ宗教観を共有していたことになりますが、時代が下り、インド方面とイラン方面の宗教的世界観には大きな隔たりが生じました。

 インド神話で神とされた存在『デーヴァ』がゾロアスター神話では悪魔『ダエーワ』とされ、悪魔扱いされたアスラが神『アフラ〈注1〉』となったのです。

 

  上記の関係は最初からそうだったわけではなく、インド神話の初期に当たる『ヴェーダ神話(バラモン教の神話)』では、アスラも神扱いされており、古代イランの地域でもデーヴァは普通に崇拝の対象でした。  

 一般的な宗教史の見解としては、古代インドと古代イランの各アーリア人の関係が疎遠・悪化したことで、このような善悪の構図が成立したと思われますが、イラン方面でこれを決定的にしたのが、ゾロアスター教の開祖『ザラスシュトラ(英名:ゾロアスター)』の宗教改革です。

 彼が開いた教え――世界初の『善悪二元論』の思想により、古代イランにおけるアーリア人の神々は善悪に分類されました。

 

 インド神話の主神にして英雄神であるインドラや、絶大な力を持つ暴風神ルドラ(後のシヴァ)は悪魔とされました。
 逆に法の神であるヴァルナは、アフラ・マズダー(『全知の主』という意味)としてゾロアスター教の最高神となりました。

 また、契約の神であるミトラは中級の善神『ヤザタ』の筆頭神とされ、後にアフラ・マズダー以上の人気を得ることになりました。
 ミトラを主神としたミトラ教ローマ帝国で流行し、初期キリスト教の最大のライバルになりましたが、最終的には衰退しました。

 

 このような分類は、ひとえに法と秩序を重んじるザラスシュトラやその一派の考え方によるものでしょうが、逆を言えばインドラなどの『戦いに深く関わる神々』が悪魔扱いされる傾向にあったことは注目に値します。

 古代アーリア人の間では、当時の遊牧社会の経済基盤であった牛を生贄に捧げ、『ハオマ』という麻薬的な飲料を飲んで血染めの狂宴的夜祭りを行う『男性結社(戦士集団の結社)』があったそうです。

 こうした風習は『(広義の)アーリア人=インド・ヨーロッパ語族(の大半)』で共通しており、北欧神話では『ベルセルク(バーサーカー)』という狂戦士の伝承の元になったようです。

 ザラスシュトラは、こうした野蛮に見える男性結社を悪神の使徒と見なしていたと思われます。

 

 一方、インド神話では、アスラが悪魔的存在とされるようになってからも、ゾロアスター教ほど極端な善悪二元論で分けられることはありませんでした。

 こちらの神話では、神々たるデーヴァを破って覇権を握った後、理想の統治を行ったというアスラ王〈注2〉が複数語られています。

 そういう意味では、インド神話の方がデーヴァとアスラという二大勢力を比較的公平に扱っていたのかもしれません。

  神々(またはそれに準ずる存在)の二大勢力で繰り広げられた争いは、一神教の『天使と悪魔』、ギリシア神話の『オリュンポス神族ティターン神族』など世界各地で見られ、珍しいことではありません。

 ただ、インド神話の特徴としては、こうした二大勢力の抗争が一方の完全勝利で終わらないことです。

 インド神話の二大勢力であるデーヴァとアスラは、基本的にデーヴァが天界、アスラが地下世界を拠点としていますが、先に述べた通り、時に神々であるデーヴァが敗北し、三界(天界・地上界・地下世界)の支配権をアスラに奪われるという事態までも度々語られているのです。

 

 では、デーヴァとアスラの抗争は、古代インドのお隣の宗教――ゾロアスター教ではどのように描かれたのでしょうか。

 インド神話では、デーヴァやその加護を受けた英雄たちが華々しく活躍しますが、彼らの英雄譚はゾロアスター教の視点ではどのように見られていたのでしょうか。

 次の記事では、そのことを考察したいと思います。

 

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★アーリア人の二大勢力の神々については、以後もインド神話とゾロアスター教神話という2つの視点にて、言及していきます。

 

 この辺りはとても混乱し易いので、表記をあらかじめ取り決めたいと思います。

 この記事においては、デーヴァのことを『デーヴァ(ダエーワ)』、アスラのことを『アスラ(アフラ)』というように、まずヒンドゥー教(インド神話)の神名を表記し、それに続いてカッコ内にゾロアスター教の神名を表記していきますので、ご了承ください。


【注釈 1~2】

 

■1 アフラ

 アフラは『lord/主』という意味であり、ゾロアスター教では神に当たる。

 アフラはインド方面では『アスラ』と呼ばれ、バラモン教の後を受けたヒンドゥー教では概して悪魔的な存在とされた。

 

■2 理想の統治を行ったというアスラ王

 インド神話において、善政を行ったというアスラ王は複数言及されているが、その代表は『マハーバリー(サンスクリット語:महाबली/Mahābalī )』である(※『バリ』という名前でも知られている)。

 マハーバリーの統治は「喜びに満ち、世界はあまねく光り輝いて富にあふれ、三界のどこにも飢える者はいなかった」という。
 マハーバリーの別名を『ヴァイローチャナ』と言い、このアスラ王が真言密教(真言宗)の主尊たる仏『大日如来(マハーヴァイローチャナ)』になったという説がある。

災厄と破局

最高神 アフラ・マズダー

●画像引用 Wikipedia

悪神 アンラ・マンユといわれる彫像

 上記の獅子頭の彫像は、当初ゾロアスター教の時間の神『ズルワーン』だと思われていました。

 R・C・ゼーナーが著書『ズルワーン』の初版においてそのように記したことが始まりですが、同著者は後にこれを訂正し、『獅子頭の神』は悪神アンラ・マンユの相の1つであると述べました。

 

●画像引用 唐草図鑑

ネルガル(左)とナラシンハ(右)

 アンラ・マンユといわれる獅子頭の神に関連して、上記の神々を紹介したいと思います。

 左がメソポタミア神話の戦闘神・冥界神である『ネルガル』、右がヒンドゥー教の主神の1柱であるヴィシュヌの化身『ナラシンハ』です。

 共に『獅子の頭をした凶暴な強さを持った神』として知られています。

 右のナラシンハ像のバージョンでは、体に蛇が巻き付いているので、獅子頭に蛇を巻き付けたアンラ・マンユ像(?)との関連が興味深いところです。

 

 なお、ヴィシュヌには太陽神(太陽の光の作用を神格化)としての性質がありますが、ネルガルにも(日照りなど不吉な意味ですが)太陽神としての性質があります。

 ヒンドゥー教の聖典『バガヴァッド・ギーター』において、ヴィシュヌの化身であるクリシュナは、「我はカーラ(時間)、世界を滅ぼす強大な根源である」と告白し、『時間』と『死』を司る神として面を明らかにしました。

 つまりヴィシュヌは『太陽』と『死』というネルガルと同じ性質を持っていることになるのです。

 また、先に挙げた獅子頭の彫像は、アンラ・マンユ(悪神・死神)、またはズルワーン(時間の神)という2つの説がありますので、この点でも奇妙な一致があります。

 

 聖典において如何に深淵な思想が教示されようが、このような神は、(ゾロアスター教の視点で見れば)まさしく『悪』と『死』の化身であるアンラ・マンユ〈注5〉のように映ったのかもしれません。

 

●画像引用 Wikipedia(左)、ヒンドゥーの神々(右)

ジャムシード(イマ)

 ゾロアスター教の神話に登場する聖王イマは、ペルシア語では『ジャムシード』と呼ばれています。

 イマはインド神話のヤマ(閻魔大王)と共通のルーツを持つ人物です。

  

 ゾロアスター教の神話では、氷河期が到来した際にイマが神より啓示を受け、巨大地下施設『ヴァラ』を建設したと記されています。

 イマに選ばれ、ヴァラに避難できた人間たちはその中で楽園のような生活を送ったそうですが、疾患持ちや貧乏な人間たちは(例え人格者でも)ヴァラに入ることはできませんでした。

 そういう意味では、イマは『優生学』的な観点で人間選別を行ったことになります。

 

●画像引用 Wikipedia

■核実験(アイビー作戦)により発生した巨大なキノコ雲

 

 核戦争が起これば、地球上に大規模環境変動が起き、人為的な氷期が発生するといわれています。

 

●画像引用 Wikipedia

 ゾロアスター教では、この宇宙の主宰者はアフラ・マズダー(ヴァルナ)という神とされています。

 ゾロアスター教の宇宙観はとても興味深いのですが、それはまた別の機会にて述べたいと思います。

 

 では、ゾロアスター教におけるデーヴァ(ダエーワ)とアスラ(アフラ)と抗争はどのように始まったのでしょうか。

 ゾロアスター教の神話では以下のように記されています。 

 

 まだ物質世界ができる以前のこと。

 善神アフラ・マズダーは悪神アンラ・マンユから襲撃を受けた。

 アフラ・マズダーはアンラ・マンユを魔法の呪文で撃退し、この悪神を闇の領域(地下世界)に封印した後、世界の創造を開始した。

 アフラ・マズダーは数多の聖霊、原始牛(ゲウシュ・ウルヴァン)〈注:追記〉、原始人(ガヨー・マルタン)、そして水・空気・土・金属などの物質を造り上げた。

 この間、アンラ・マンユはただ引き籠っていたわけではなかった。

 次なる戦いのため、アンラ・マンユは彼を補佐するデーヴァ(ダエーワ)や数多の悪霊を生み出したのだ。

 

 上記の記述にある通り、ゾロアスター教ではアスラ(アフラ)の主神が物質世界を創造したことになっています。

 また、インド神話では地下世界に拠点があるアスラ(アフラ)ですが、物質世界ができる以前の霊的な戦いの場面ではそのように描かれていません。

 この時点では、デーヴァ(ダエーワ)はまだ生まれておらず、悪神が地下世界にいる間にこれらの神々が創造されたことになっているのです。

 そして長い時が経ち、二大勢力を分かつ封印が解き放たれると、アンラ・マンユと彼の眷属は地上への侵略を開始しました。

 この時の様子は、ゾロアスター教の文献『ブンダヒシュン(Bundahishn)』に記されています。

 

 ある日の正午、悪霊が大地の下にある水(地下水の領域?)を通って大地を破り、地上に現れた。

 その後、悪霊は植物、牛、原始人(ガヨー・マルタン)に襲いかかった。

 彼らは蠅の如く俊敏に万物を駆け巡った。

 悪霊によって真昼の世界は害されて暗くなり、まるで闇夜のようになった。

 

 上記の記述は、『悪の勢力』が地下世界に封印にされていたこと、そして地下世界を出て、地上のあらゆる存在に襲いかかる様子を描いています。

 さらに『ブンダヒシュン』には、悪霊によってヘビ・サソリ・カエル・トカゲなど有毒な生物がばら撒かれたこと、植物に疫病が蔓延したこと、牛と人間に貪欲・欲望・痛み・空腹・病気・無気力がもたらされたことなども記されています。

 この記述は、生物兵器のことも含めて暗示しているのかもしれません。

 『ブンダヒシュン』で言及された悪霊とは、アンラ・マンユとその眷属を指します。

 当初、楽園だった地上(物質世界)は、こうして戦争を含めた様々な災厄がもたらされたことになったのです。

 同文献では、「空が暗く変貌し、星座が変わった」とも記されているので、これは地軸が傾いたことを暗示している可能性があります。

 地上の生類は死の危険に晒され、生活環境も大きく変わりました。

 『悪の勢力』の攻撃によって大気は激しい嵐を引き起こし、大地震が起こり、数々の山ができた上に、雪・海・森・砂漠などの形成にも影響が及んだようです。

 

 『インド神話の核兵器(?)その2』において、インド神話の英雄ラーマの『ブラフマーストラ(核兵器的な魔術)』によって砂漠が生じたという伝承を紹介しましたが、それと上記の話がリンクするようで興味深いところです。

 ラーマは、ヒンドゥー教の主神の1柱であるヴィシュヌの化身であり、ゾロアスター教の視点では間違いなく『悪の勢力』に属するからです。

 ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』では、アンラ・マンユの攻撃によって「冬が10ヶ月、夏が2ヶ月になった」と記されています。

 つまりアンラ・マンユやデーヴァ(ダエーワ)などの『悪神』により、『氷河期』がもたらされたことになるのです。

 インド神話の神々は、自分たちだけが戦争で大量破壊兵器を使っていただけでなく、人間(主に僧侶階級・戦士階級)や他の種族にもこれを与えていました(どんな国や武装勢力であろうとも武器を売る『武器商人』っぽい感じもしますね)。

 故に、こうした兵器が多用される事態になったとしてもおかしくはないでしょう。

 ただ、インド神話ではアスラ(アフラ)側も同様の大量破壊兵器を使用していたので、デーヴァ(ダエーワ)だけに災厄の責任があったようには見えません。

 おそらく、二大勢力はまさに『仁義なき戦い』を繰り広げていたのでしょう。

 ゾロアスター教の神話では、この戦いについて『善悪』の分類をすることで、自分たちにとって都合の悪い部分を隠したかったのかもしれません。

 

 さて、アンラ・マンユは地上へ侵略し、原始人たる『ガヨー・マルタン』と原始牛の殺害に成功しました。

 これは現生人類より前に地上に君臨していた旧人類――言い換えるなら、アフラ・マズダーに従っていた知的種族を皆殺しにしたといえるのかもしれません。

 ですが、ガヨー・マルタンが体から精液が漏れたことで『マシュヤグとマシュヤーナグ』など新たな人類が生まれ、共に殺害された原始牛の精液からは様々な穀物と薬草が生まれたそうです。

 なお、ガヨー・マルタンの死体は7種類の金属になったという伝承もあるとか〈注3〉。

 

 聖典『アヴェスター』では、アフラ・マズダーから啓示を受けた聖王イマが、『破滅的な冬(氷河期)』を避けるために巨大地下施設『ヴァラ』を建設し、選別した人間をそこに連れていく様子が描かれています。

 上記の背景としては、二大勢力の戦争が激化した結果、アスラ(アフラ)の勢力がかなり追い込まれた状況だといえましょう。

 原始人のガヨー・マルタンはアンラ・マンユによって殺されていますので、この人類とは『マシュヤグとマシュヤーナグ』の子孫なのかもしれません。

  この話を現代風(?)に言い換えると、先に地上に君臨していた先人類(ガヨー・マルタン)は侵略者によって絶滅させられましたが、その遺伝子から別の人類が創造され、彼らが繁殖したことになります。

 この新人類は、悪の勢力によって危険に晒されつつも一部が地下世界に避難し、生き残ったことになります。

 なお、人類の中にはアンラ・マンユによって肉体に烙印を押された者たちがいたようですが、そうした者たちはヴァラに入れる人間として選別されませんでした。

 これは、人間の中にアンラ・マンユに従った、あるいは従うことを強要された者たちがいたことを暗示しているのかもしれません。

 

 ゾロアスター教の神話では、侵略者から襲撃を受けた後、イマが人類を選別し、地下世界へ避難するという一方的な流れで話が綴られているように見えます。

 実際には侵略を受けてから様々な興亡があり、それがインド神話における『デーヴァとアスラの抗争』という形式で様々な物語として描かれたのかもしれません。

 皮肉なことに、この時になってゾロアスター教の神に属する人々は、彼らが『悪神』と呼んだ者たちが潜伏していた地下世界へと追いやられることになってしまったのです。

 これがインド神話において、アスラ(アフラ)が地下世界の楽園『パーターラ〈注4〉』に住むといわれた伝承の大元と思われます。

 

 一方、アンラ・マンユは原始人や原始牛を殺害したものの、その過程で『ある金属』の中に封印されてしまったとか。
 ということは、アンラ・マンユがいなくなってからは、その配下であるデーヴァ(ダエーワ)が地上侵略を主導したのかもしれません。

 つまり、最終的にはアンラ・マンユの侵略計画を継承した部下たちが、地上と天界の覇権が握ったことになります。

 それが『雷神』を筆頭とする『アーリア人が信仰する多神教の神々』ということになるのでしょうか。

 この雷神は、インド神話ではインドラ、ギリシア神話ではゼウスヒッタイト神話ではテシュブなどの名前で呼ばれました。さらに遡れば、メソポタミア神話の雷神アダドがルーツのようです。

 

 これまではゾロアスター教の神話を中心に話を進めてきましたが、内容をまとめましょう。

 インド神話ではやたら強力な兵器が普及し、それがしばしば使用される記述がありました。

 それこそ、「世界を滅ぼす」とまでいわれた兵器も使用されたようなのです。

 インド神話では余り語られることがなかったその結末が、ゾロアスター教の神話で言及された『破滅的な氷河期』であり、その実態は『核の冬』、あるいは隕石のような『大質量』を地球に激突させることで生じる『衝突の冬』に近い大災害だったのかもしれません。


【注釈 3~5】

 

■3 ガヨー・マルタンの死体は7種類の金属になったという伝承

 インド神話において理想の統治者といわれたアスラ王マハーバリーは、最終的にヴィシュヌの化身『ヴァーマナ』に敗北し、地下世界に戻されることになった。

 上記の異説として、マハーバリーは敗北した際に殺害され、「その死体が様々な宝石になった」という伝承がある。

 この話は、「ガヨーマルタンの死体が7種の金属になった」というゾロアスター教神話との関連を連想させるので興味深い。

 もしかしたら、ゾロアスター教神話にある原始人ガヨー・マルタンとは、インド神話におけるマハーバリーのことなのかもしれない。


■4 パーターラ
 インド神話における地下世界であり、主にアスラやナーガ(蛇神族)の居住地域。

 地下世界ではあるが『地獄』のような場所ではなく、『バーガヴァタ・プラーナ』によると、「苦しみや病気、困難などが決して訪れることのない楽園」だと記されている。

 一方、ゾロアスター教の聖典『アヴァスター(ヴェンディダード章)』に記された巨大地下施設『ヴァラ』も、『最も幸福な生活ができる楽園』として伝えられている。

 伝承の時系列から見て、最も古いヴァラの伝承が、インド神話のパーターラ、そしてチベット仏教のシャンバラ伝説など『地底世界にある楽園伝承』の元になった可能性がある。

 

■5 『悪』と『死』の化身であるアンラ・マンユとヴィシュヌの関連

 ゾロアスター教が始まった時代、ヴィシュヌやシヴァなどの神々は、インドの宗教において主神として地位をまだ確立していなかった。

 そういう意味では、アンラ・マンユとして想定されたアーリア人の神はヴィシュヌではないと思われる。

 『アーリヤの男性結社』の著者であるスティグ・ヴィカンデルによると、アンラ・マンユは風の神である『ヴァーユ(ワユ)』と同一の神である可能性が高いという。

 ただ、ヴェーダ神話からヒンドゥー教の神話まで目を通しても、ヴァーユから『邪悪の化身』というほどのイメージを思い浮かべることは難しい。

 ゾロアスター教の悪神アンラ・マンユを敢えてヒンドゥー教の大神に置き換えた場合、『強さ』『狡猾さ』『アスラ(アフラ)に対する仕打ち(殺した数など)』などの要素を総合的に考えれば、ヴィシュヌが最も適切だと思われる。

 神話の記述を見ると、ヴィシュヌ以外の大神であるブラフマーやシヴァはしばしばアスラ(アフラ)にも恩恵を与えていることに加え、(悪神の特徴である)狡猾さという点において、ヴィシュヌの方が遥かにずば抜けているからである。

 逆に言えば、ヴィシュヌはそれだけ知略にも長けた神といえる。

 『正』と『負』の面の両者を考慮して考えると、ヴィシュヌの本質は『慈愛に満ちた救世の神』というよりも、『知略に長けた英雄神(英雄は同時に殺戮者でもある)』なのかもしれない。

 なお、アンラ・マンユと同一視されるインド神話の神格として、リシ(聖仙)アンギラスを挙げる説もある。  

 

■追記 原始牛(ゲウシュ・ウルヴァン)

 古代ペルシア神話における原初の雄牛。名前は「雌牛の魂」を意味する。

 『ゴーシュ・ウルーン(Gosh Urun)』とも呼ばれ、原始人(ガヨー・マルタン)と共に作り出されたという。

 悪の原理アンラ・マンユによって殺された、あるいはミトラによって殺されたなどの諸説がある。

 あらゆる動物や植物はゲウシュ・ウルヴァンの死骸から生じたと考えられた。

 ゲウシュ・ウルヴァンは広い地域で牛に限らない家畜の守護者として信仰され、ミトラ教においては『ミトラに屠られる雄牛』としてミトラの神殿に絵や像として描かれ、儀式の中で重要な一部を担った。

神話が暗示するこれからの未来

 上記は、現在における『表向きの核兵器の拡散状況』です。

 実際は公表していないだけですでに核兵器を所有している国家もあるでしょう。

 もし小型の核兵器が開発・普及されれば、そしてそれが現代の資本主義体制に不満を持つテロリストや、マフィアの手にまで渡るようになれば、『世界終末時計』の針は一気に加速することでしょう。

 

●画像引用 Wikipedia

インドラ

 インド神話では神々の王とされるインドラですが、ゾロアスター教では悪神『ダエーワ』の1柱とされました。

 ゾロアスター教の神話だけでなく、インド神話においても、この神の行動を見ていると、確かに悪神といえなくもないような……。

 

 なお、仏教の開祖であるブッダが『成道(悟りを開くこと)』の直前に対決したという悪魔『マーラ』の正体は、インドラ(の堕落した相)のようです。

 ヒンドゥー教においても、インドラは僧侶などの修行を邪魔する存在とされました。

 上記の理由としては、修行者の霊力が強くなってしまうと、インドラの神としての権力が脅かされるからだとか。

 インドラは、巨大な蛇『ヴリトラ』を退治した英雄神とされ、初期のバラモン教では最も人気があった神でした。

 ただ、インド哲学でいうところの『ブラフマン(宇宙の根本原理)』など、深淵な思想からは遠い『俗物の神』だったため、このような凋落が起こったと思われます。

 つまり『世俗的な(戦士階級の)権力者』の象徴が、インドラだといえるでしょう。

 

●画像引用 Wikipedia

カルキ

 『カルキ(サンスクリット語:कल्कि/kalki)』はヒンドゥー教の大神ヴィシュヌの10番目の化身であり、インド神話の終末『カリ・ユガ(悪徳の時代)』に現れるという救世主です。

 

 カルキは、一般的には『白馬に乗った騎士』のイメージで知られていますが、上記の画像は『ヴァージムカ』という『馬頭のヴィシュヌ』に近いバージョンの姿です。

 もし、ヴィシュヌの本質にネルガルやアンラ・マンユのような死神としての相が含まれているとしたら、その化身であるカルキの『救済』には、『無数の死』が伴うことになるかもしれません。 

 

●画像引用 Wikipedia

 同じアーリア人の神話であるはずのインド神話では、破滅の物語として『大洪水』の伝承はありますが、氷河期を思わせる話は語られませんでした。しかも、その大洪水についても明確な原因が語られていないのです。

 インド神話では、ヒンドゥー教の神々が破壊兵器を普及させた記述が多々見られるので、そうした兵器によって氷河期(あるいは大洪水)などの大災害がもたらされたという内容は、都合が悪かったのかもしれません。

 

 それが科学兵器であれ、魔術兵器であれ、個々人で取り扱えるような大量破壊兵器が普及してしまっては、世界中の軍事バランスがおかしくなってしまいます。

 国家間の力関係もそうですが、例えば某国に拠点があるマフィアが、いつでも簡単に使える小型核兵器を持ってしまったら、もう政府(国家権力)はそのマフィアを取り締まることが困難になってしまうでしょう。

 神話の時代とされる超古代文明は、これに極めて近い状況になっていたのでしょうか。

 

 インド神話の記述に対し、ゾロアスター教の神話では、破滅的な災厄(氷河期)とその理由が記されていましたが、その責任は敵対者である『悪神の勢力』に押し付けられました。

 故に、「何故悪神とされた勢力が戦いを挑んだか」という理由も具体的には描かれていません。

 「心が悪だから敵対者たちは騒乱と災いを引き起こしたのだ(だから我々は悪くない)」と言えば、それで済むからです。

 

 ただ、それぞれの神話において曖昧にされた出来事は、2つを合わせて考察してみれば、実像が浮かび上がってくるのではないでしょうか。

 そう、インド神話とゾロスアスター教神話という2つの神話を見比べて浮かび上がってくること――それは、デーヴァ(ダエーワ)のアスラ(アフラ)という二大勢力の戦争で超兵器が度々使用され続けた結果、破滅的な災厄(氷河期または大洪水)がもたらされたということです。

 

 そして現代。

 神話の世界にあるような『(個人で扱える)魔術的な核兵器』とは異なりますが、小型化された核兵器が開発されようとしています。

 いや、まだ公表されていないだけですでに開発が完了し、普及段階に入っているのかもしれません。

 現代のグローバル資本主義体制は、僅かな超富裕層によって実質的に支配されているといわれています。

 彼らの正体は代々続く大資本家たちと考えられていますが、君主や政治家たちのように表立って支配しない分、かえって始末が悪い部分があるといえましょう。

 どんな『暗君』や『悪逆な独裁者』でも、表立って政治をしていれば、失敗した時に『死の報い』を受ける可能性が高いですが、現代の支配者たちはそうした責任も負わず、ただ利益や搾取を追求していけるのですから。

 

 現代の状況に不満を持つテロリストたちが、小型化された核兵器を手にしてしまったら……そして、そうした者たちを危惧する資本主義の支配者たちが、『反逆者』の鎮圧に同様の兵器を使用してしまったら、世界の歴史はやがて神話の終末の如き最期を迎えてしまうかもしれません。

 そう、北欧神話の終末『ラグナロク』のように……。

 ※なお、こちらも(広義の)アーリア人の神話です。

 

 あるいは、そうした事態を避けるために現代資本主義の支配者たちは、これからの世界を『強固な管理社会』に変えようとしているのかもしれませんね。

 陰謀論でよく聞く世界支配計画『ニューワールドオーダー(新世界秩序)』には――

 

「高度にテクノロジーが発達した時代になった以上、支配者に不満を抱いても逆らうな。大人しく家畜でいろ。何故ならこれからの戦争は、世界を破滅させてしまうのかもしれないのだから(武力で革命ができる時代ではなくなかったのだ)」

 

――そんな意図が込められているのかもしれませんね。

 ただ、マイクロチップ埋め込みなどの管理を強制しようとすれば、それこそ新たなテロリズムを生む温床となるでしょう。

 あるいは、発展する科学技術は、いつか不満を全く抱けなくなるような、完璧な洗脳や脳改造すら可能にするのかもしれません。

 これは明らかにディストピアですが、権力者が民衆を行う支配としては『最も都合のよい体制』となります。

 こうなってしまえば、文字通り誰も権力者に逆らうことはできなくなるでしょう。

 何故なら『逆らう動機』をも喪失するのですから。

 

 そして、このような完璧に近い管理社会を築くかもしれない近未来の権力者たちは、遥か遠い未来において、法治主義(民主主義の法治体制)と高度な技術によって理想の政治を行ったアフラ(神的存在)、あるいは自分たちに都合のよい法を大義名分にして(帝国主義的・資本主義的な)侵略と搾取を行ったアスラ(悪魔的存在)として伝えられることになるのかもしれません。

  また、圧倒的不利を乗り越えて上記のような支配体制を打ち倒せた者たちは、権力者から民衆を救済したデーヴァ(神的存在)、あるいは平和な『世界秩序』に災厄をもたらしたダエーワ(悪魔的存在)として伝えられることになるのかもしれませんね。

 

 まあ、これは近未来の世界が、さらにその先の遠い未来において『神話』になってしまった場合の『仮定の話』ですが。

 

 では、これにて『インド神話の核兵器(?)』シリーズは完結です。

 自分でも、このシリーズがここまで長くなるとは思いませんでした。

 ここまで読んでいただいた皆様に心から感謝致します。

 

 ありがとうございました。 


参考・引用

■参考文献

●マハーバーラタ C・ラージャーゴーパーラーチャリ・奈良毅・田中嫺玉 訳 

●マハーバーラタ 山際素男 編著 三一書房

●ラーマーヤナ 河田清史 著 第三文明者

●新訳ラーマーヤナ ヴァールミーキ 著 中村了昭 訳 東洋文庫

●SIVA PURANA The ancient book of Siva RAMESH MENON 著

●ヒンドゥーの神々 立川武蔵・石黒淳・菱田邦男・島岩 共著 せりか書房

●インド宇宙論大全 定方晟 著 春秋社

●梵和大辞典  荻原雲来 編纂 講談社

●A Sanskrit English Dictionary M. Monier Williams 著 MOTILAL BANARSIDASS PUBLISHERS PVT LTD

●The Zend Avesta, Part I The Vendîdâd (English Edition)   Friedrich Max Müller 著  James Darmesteter 英訳

●神々の魔術 グラハム・ハンコック  著、大地舜 訳 角川書店

アーリヤの男性結社―スティグ・ヴィカンデル論文集

 スティグ・ヴィカンデル 著、前田耕作 編集、 Stig Wikander 原著、檜枝陽一郎 訳、与那覇豊 訳、中村忠男 訳 言叢社 

 

■参考サイト

●Wikipedia

●ピクシブ百科事典

●コトバンク

●weblio辞書

●バルバロイ!

●hinduwebsite.com The Zoroastrian Cosmology(https://www.hinduwebsite.com/Zoroastrianism/cosmology.asp)

●唐草図鑑

●NASA/JPL-Caltech

●pinterest

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