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密教の瞑想法――五字厳身観

チャクラと生命エネルギー

獣の主

 画像はインダス文明の古代都市遺跡――『モヘンジョダロ(モエンジョ=ダーロ)』から出土された『獣の主』の印章であり、 『ハラッパー』の遺跡でも同様の遺物が発見されています。

 

 『安座(安定坐法:スッカアーサナ⇒ヨーガの姿勢の1つ)』のような姿勢で座している印章の人物は、ヒンドゥー教の大神シヴァの前身の1つではないかと思われていました(シヴァはヨーガの神でもあります)。

 印章の人物が、『ヨーガ的座法(?)』、『三日月』と『牛』(三日月型の牛角を生やしていること)、『ファルス豊穣のシンボル)』というシヴァにも見られる特徴を備えているからです〈注4〉。

 その一方で、印章の人物にはシヴァとの直接的な関連はなく、ヨーガの姿勢を取っているかどうかも定かではないという説もあるようです。

 ただ、だらしなく胡坐をかいているわけではなく、背筋を伸ばした(ように見える)姿勢を取っているので、少なくとも後世のヨーガの原型的なものがすでにインダス文明にあったのではないかと思わせます。

 

 もし、ヨーガの原型がインダス文明の時代から存在していたとすれば、ヨーガにおいて重要視されている呼吸法の原型もこの頃から実践されていたことになるのでしょうか。 

  

●画像引用 Wikipedia

ヨーガのチャクラ(左)

カバラのセフィロトの樹(右)

●画像引用 Wikipedia

胎蔵曼荼羅

 『胎蔵曼荼羅/たいぞうまんだら(または胎蔵界曼荼羅/たいぞうかいまんだら)』は、真言宗の根本経典の1つである大日経の思想に基づいて描かれた『曼荼羅(まんだら)』です。

 

 『胎蔵』とは『大悲胎蔵生(だいひたいぞうしょう)』のことであり、これは子供が母親の胎内で育つように、大日如来の慈悲により、本来存在している悟りの本質が育まれて生まれてくるという意味とのことです。

 

●画像引用 Wikipedia

 仏教には、大別して上座部仏教大乗仏教があります。

 上座部仏教は南伝仏教とも呼ばれ、スリランカを経て東南アジアに広まりました。

 一方、大乗仏教は東アジアやチベットへと伝播しました。

 仏教の神秘主義思想である密教とは、この大乗仏教における『秘密の教え』を指し、『金剛乗』または『金剛一乗教』や『金剛乗教』ともいわれることがあります。

 

 密教には様々な瞑想法(観想法)が伝えられており、その1つが『五字厳身観(ごじごんしんかん)』です。

※観想とは、簡単に言えばイメージトレーニングです。

 

 ヒンドゥー教ヨーガでは『7つのチャクラ(輪)』という人体のエネルギーセンターが考えられましたが、五字厳身観はその密教版ともいえます。

 チャクラについては知らない方もいると思いますので、その説明から入りたいと思います。

 

 チャクラ的思想の前提となるのが、人体にある(流れている)といわれている生命エネルギーです。

 これは宇宙全体に広がる『根源的・霊的なエネルギー(スター・ウォーズ的に言えばフォースみたいなもの)』と関連づけられており、インド(ヒンドゥー教ヨーガ)では『プラーナ』、チベット仏教では『ルン(風)』、陰陽五行などの中国思想では『氣(気)』と呼ばれています。

 歴史を振り返ると、インダス文明に存在していたかもしれない修行法(ヨーガの原型?:※左画像参照〉、あるいは 古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』で言及された神秘的力『タバス(熱力)』に生命エネルギー的な概念の源流があるのかもしれません。

 注目すべき点は、これらの概念が皆、『気息』や『空気』と結びついていることです。

 

 呼吸を霊性や生命エネルギーに関連づけたのは、インドや中国だけではありません。

 以下に例を挙げて見ましょう。

 

古代ギリシア語の『霊=プネウマ

⇒気息、風、空気に由来。

ラテン語の『霊=スピリトゥス(英語ではスピリット)

⇒息、呼吸に由来。

ヘブライ語の『神の霊=ルーアッハ

⇒息、風に由来。

 

 このように気息(呼吸)は広く霊性と関わりがあると考えられていたようです。

 この発想は実は最古の文明とされるシュメールでも同様であり、シュメール語で呼吸を意味する『𒍣(zi/ズィまたは)』は、同時に『生命(life)』や『霊魂(soul)』という意味も含んでいました(出典:SUMERIAN LEXICON)。

 シュメール神話において、風の神であるエンリルが(実質的な)主神とされたのも、シュメール人が『風(空気)⇒呼吸⇒霊性⇒神性』という連想を思い浮かべたからかもしれません。

 

 神秘主義において、霊的エネルギーには中枢となる部位があると考えられました。

 それが身体にあるというチャクラです。

  ヨーガ系の思想によると、チャクラの数は小さいものを含めると数万(!?)もあるといわれているようですが、主要な部分となるとその数は限られてきます。

 先述した通り、ヒンドゥー教系のヨーガでは『7つのチャクラ』があると考えられましたが、類似の概念として氣功では『3つの丹田』、ユダヤ教の神秘主義『カバラ』の象徴体系である『生命の樹(セフィロトの樹)』では『10個のセフィラ(天球)』が定められました〈注1〉。

 注意しなければならないのは、こうしたエネルギーセンターの数は、言うなれば『後付けの設定』であり、最初からそのような神秘主義の体系があったわけではないことです。

 

 各神秘主義に共通するエネルギーセンターの部位として、『頭部』『胸部』などは共通していますが、それ以外は異なる場合があります。

 故に「どの数か正しいのか」ということには、余りこだわる必要はないでしょう。

 

 こうしたエネルギーセンターの思想の類として、密教でもチャクラがあるのですが、こちら(同じ密教内)でも宗派によってその数や部位が微妙に異なるようです。

 チベット仏教後期密教)では『4~6つのチャクラ〈注2〉』が定められましたが、これから紹介するのは『弘法大師空海(こうぼうだいし・くうかい)』が日本に伝えた中期密教に由来するチャクラの観想法――『五字厳身観』です。

 これは『五大成身観(ごだいじょうしんかん)』あるいは『五輪成身観(ごりんじょうしんかん)/略称:五輪観(ごりんかん)』とも呼ばれています。

  

 五字厳身観は、真言宗の根本経典の1つである『大日経(だいにちきょう)〈注3〉』に基づきますが、同経典内において独立した分類(章)としてまとめられていたわけではありません。

 別々の巻で書かれている複数の行法が、後代に1つの観想法として組み合わされた修行システムのようです。

 

 この観想法で言及される『五大』とは、『地』『水』『火』『風』『空』という五大元素のことです。

 インド哲学において、上記の概念は宇宙を構成する要素として考えられていました。

 端的に言えば、五字厳身観とは自分に身体に五大元素を対応させる(イメージをする)ことで、宇宙そのものとされる真言密教の本尊『大日如来』に近づこうという修行法ですね。

 

 瞑想(観想)によって『宇宙の根源的な存在』に繋がろうという発想は、他の神秘主義でも見られることですが、密教ではどのようにそれを成そうと思ったのでしょうか。

 

 次章において、それを見ていきましょう。


【注釈 1~4】

 

■注1 10個のセフィラ(天球)

 オカルトの世界において、カバラ(クリスチャン・カバラ)の『生命の樹(セフィロトの樹)』はよく知られ、魔術結社『黄金の夜明け団』でもこの象徴体系は重要視されている。

 エネルギーセンター的なポイントは、『セフィラ(天球)/複数形:セフィロト』と呼ばれ、これに対応する身体の部位は以下の通り。

 

①ケテル(意味:王冠/頭頂部)

②コクマー(意味:知恵/左顔)

③ビナー(意味:理解/右顔)

④ケセド(意味:慈悲/左腕)

⑤ゲブラー(意味:峻厳/右腕)

⑥ティファレト(意味:美/胸)

⑦ネツァク(意味:勝利/左腿)

⑧ホド(意味:栄光/右腿)

⑨イェソド(意味;基礎/陰部)

⑩マルクト(意味:王国:足)

 

 他に秘密のセフィラとして『ダアト(意味:知識/顔または喉)』があるとされている。

 ただ、『生命の樹』の定義も所説あり、上記はその1つとなる。

 また、『生命の樹』はその対となる『邪悪の樹(クリフォトの樹)』という体系とセットになっており、こちらのセフィラに当たる『クリファ(『殻』の意味)/複数形:クリフォト』にはそれぞれ「悪魔が住む」という。

 

■注2 チベット仏教(後期密教)では『4~6つのチャクラ』

 インドの後期密教のタントラ経典では、4つのチャクラが定められた。

 チベット仏教の場合は5つのチャクラ、『時輪タントラ(後期密教の最後の経典)』では6つのチャクラである。

 チャクラの各部位は以下の通り。

 

●4つの場合 ⇒ ①臍、②心臓、③喉、④眉間

●5つの場合 ⇒ ①会陰、②臍、③胸、④喉、⑤頭頂

●6つの場合 ⇒ ①会陰、②臍、③胸、④喉、⑤眉間、⑥頭頂

 

■注3 大日経(だいにちきょう)

 大日経の正式な漢訳名は『大毘盧遮那成仏神変加持経/だいびるしゃなじょうぶつじんべんかじきょう)』であり、サンスクリット名は以下のように長い。

 

 महावैरोचन अभिसंबोधि विकुर्वित अधिष्ठान वैपुल्यसूत्र इन्द्रराज नाम धर्मपर्याय ※デーヴァナーガリー文字

 mahāvairocana-abhisaṃbodhi-vikurvita-adhiṣṭhāna-vaipulyasūtra-indrarāja-nāma-dharmaparyāya

 マハーヴァイローチャナ・アビサンボーディ・ヴィクルヴィタ・アディシュターナ・ヴァイプリヤスートラ・

 インドララージャ・ナーマ・ダルマパリヤーヤ

 ※意味:大毘盧遮那成仏神変加持という方等経の大王と名付くる法門

 

■注4 『三日月』と『牛』と『ファルス(豊穣のシンボル)』の特徴

 インダス文明の印章の人物に見られた『三日月』と『牛』という特徴は、実はメソポタミアの月神『ナンナ(アッカド名:シン)』とも共通している。

 また、ナンナはファルスをシンボルとしていないものの、『豊穣』という神性も備えている。

 

 メソポタミアの文書(粘土板)によると、インダス文明はシュメール都市文明の時代からウル第3王朝の時代までメソポタミア地域の国家と交易を行っていたようである(インダス文明とメソポタミア文明の関係)。

※上記を示す例として、インダス文明で造られたカーネリアンのビーズがシュメールの都市ニップルで発見されている。

 なお、ナンナはシュメールの都市ウルの守護神(都市神)である。

 

 このことを踏まえると、インダス文明の印章に描かれた人物は、メソポタミアのナンナ信仰と関係しているのかもしれない。

 となると、ヨーガの源流もシュメールに……?(もっとも、中東地域においてヨーガ的な姿勢の神像などは発見されていないが)。

五字厳身観と種字

五輪塔(右)と身体(左)の対応

●画像引用 Wikipedia

梵字(悉曇文字)

不動明王の種字『カーン』

 不動明王の種字は『呉音(ここでは真言の元の言語であるサンスクリット語を漢字で音写した場合の発音)』では『カーン』と読みますが、サンスクリット語の原音では『『हां(hāṃ/ハーン)』と読みます。

※真言宗や天台宗など日本の仏教宗派で唱えられる真言の発音は、インドにおける元々のサンスクリット発音とは異なります。

 

●画像引用 高野山-御朱印

『地』を司るア字の象徴図形と種字

 上の参考画像は、象徴図形と種字を分けて描いていますが、実際に観想する際は、図形の中に種字があるイメージとなります。このことは他のチャクラでも同様です。

ア字の観想部位(パターン:腰下)

ア字の観想部位(パターン:膝)

『水』を司るバ字の象徴図形と種字

『火』を司るラ字の象徴図形と種字

『風』を司るカ字の象徴図形と種字

『空』を司るキャ字の象徴図形と種字

マハーバリ

 椅子に座っている人物がアスラ王『マハーバリ(サンスクリット語:महाबलि/Mahābali )〈注5〉』です。

 マハーバリは『ヴァイローチャナ』とも呼ばれており、このアスラ王が『大日如来(サンスクリット語:महावैरॊचन/Mahāvairocana/マハーヴァイローチャナ)』の(直接的な)ルーツになったという説もあるようです。

 

●画像引用 Wikipedia

 五字厳身観は、身体の5つの部位(腰下・腹・胸・額・頭頂)に『梵字(ぼんじ)』である『種字(しゅじ)』と五大元素の象徴図形を観想するという内容になっています。

 上記の構造は供養塔である『五輪塔』とも共通しており、それを絵にすると左画像のようになります。

 両者は共に『法身(宇宙的真理の本体)』である大日如来を象徴化しているそうです。

 

 この観想に用いられる梵字とは、梵語(サンスクリット語)を表記するための文字の1つですが、インドにおけるサンスクリット語の主要文字『デーヴァナーガリー』とは(厳密に言えば)異なります。

 梵字はインドで使用されるブラーフミー系文字のことであり、これはブラーフミー文字を元としています。

※ブラーフミー文字は『ブラフマー梵天)が創造した文字』を意味し、梵字はその意訳となります。

 

 ブラーフミー文字が使用されていた時期は、紀元前6世紀~紀元後5世紀頃であり、後の時代にこの文字から複数の文字(ブラーフミー系文字)が派生したのです。

 その1つが6世紀から10世紀頃に北インドで使われた『シッダマートリカー文字(悉曇文字/しったんもじ)』であり、その変種が仏教系の宗教――特に密教において使用されるようになりました。

 なお、デーヴァナーガリー文字は、シッダマートリカー文字の前身に当たるグプタ文字から派生したナーガリー文字の発展型です。

 言うなれば、デーヴァナーガリー文字は梵字の姉妹または姪のようなものですね。

 

 密教では、神仏を象徴とする1音節の真言(密教の呪文)のことを『種子(しゅじ)』と呼び、これを梵字で表記したのが『種子字(しゅしじ)/略称:種字(しゅじ)』です。

 密教の修法において、この真言は本尊となる神仏を想起するための言語的なシンボルとなるので、植物と種に例えて『種子(種字)』と呼ぶそうです。

 

 例として挙げれば、金剛界大日如来の種字が『वं/バン(サンスクリット発音=原音:vaṃ/ヴァン)』、不動明王の種字が『हां/カン(原音:hāṃ/ハーン)』となります。

 そして地・水・火・風・空の五大元素を表す種字が、『अ

/ア』『व/バ(原音:va/ヴァ)』『र/ラ』『ह/カ(原音:ha/ハ)』『ख/キャ(原音:kha/カ)』となるのです。

※『अ/ア)』以外の五大元素の種字は、『アヌスヴァーラ(鼻音)』が付くパターンもあり、その場合の発音は『अ/ア』『वं/バン(原音:vaṃ/ヴァン)』『रं/ラン)』『हं/カン(原音:haṃ/ハン)』『खं/キャン(原音:khaṃ/カン)』となります。

 

 五字厳身観では、左画像のようにこの種子をイメージすることになるので心に留めておいてください。

 

 具体的な観想法としては以下の通りです。

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①『地』の観想

 腰下に 『ア字(サンスクリット語:अ/a)』と『金色の方形』を観想します。

 

〈補足〉

 密教文献の説明では『腰下』となっていましたが、表現が曖昧で具体的にどの部位が観想対象になっているかは不明です。

 『和訳 大日経(宮坂宥勝 著)』では『膝』と書かれていたので、ヨーガの『ムーラーダーラ・チャクラ』のように『会陰』を焦点とする観想ではないようです。

 ただ、膝を囲うように『金色の方形』をイメージするのか、あるいは両膝に1つずつこの象徴図形をイメージするのかは明確に記されていませんでした。

※密教の解説本などでは、『膝を含めた足全体を囲うような図』で書かれている場合もあります。

 

 ポイントとしては、下半身が『地』を象徴するということなので、どちらのパターンでも問題ないかもしれません。

 ブログ主的としてはこの解釈を取っており、さらに言えば『両膝』より『両腿』の方が『地』の観想部位として適していると考えています。

 というのも、大腿部には『大腿動脈』という大きな血管があり、血流が太い分、膝よりも(チャクラの部位とするに相応しいだけの)生命エネルギーに満ちていると感じているからです。 

 

②『水』の観想

 臍に 『バ字(サンスクリット語:व/va)』と『白色の円形』を観想します。

 

〈補足〉

 腹部を『水』の象徴として解釈するのは、ヨーガの『スワーディシュターナ・チャクラ(部位は下腹部)』でも同様です。

 氣功における丹田(下丹田)も『氣海』と呼ばれていることから、やはり『水』の要素を感じさせます。

 ただ、両者は共に部位が『臍下』となっているので、そういう意味では『水輪』を観想する部位も(臍というより)下丹田=下腹を意識した方がよいかもしれません。

 

③『火』の観想

 胸に 『ラ字(サンスクリット語:र/ra)』と赤色の三角を観想します。

 

④『風』の観想

 額(眉間)に 『カ字(サンスクリット語:ह/ha)』と黒色の半月を観想します。 

 

⑤『空』の観想

 頭頂に 『キャ字(サンスクリット語:ख/kha)』と雑色の『団形(尖っていない団子型)』あるいは『如意宝珠(にょいほうじゅ)』の形を観想します。

 

〈補足〉

 色彩について、密教文献の説明では雑色(様々な色が混じった色彩)となっていましたが、これでは何をイメージしたらよいかわからないので、ここは『極彩色(種々の鮮やかな色を用いた濃密な彩り)』と解釈し、左画像の『空輪』図もそのように作成しました。

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 上記の内容の通り、五字厳身観には五輪成身観という別名がありながら、観想する形は必ずしも『輪』となっていません。

 また、本来は印相を組みながら観想するようですが、ここでは省きました。

※印相の名称はわかっているので、特定できたら後日追記するかもしれません。

 

 ヒンドゥー教系ヨーガの『7つのチャクラ』より数は少ないですが、密教のチャクラ観想も奥が深いようです。

 ヒンドゥー教の視点では、仏教は神々であるデーヴァの敵対者――アスラの思想とされているので、ヨーガを『デーヴァの修行法』とするなら密教は『アスラの修行法』といえるかもしれません。

※もっとも、密教にせよ、ヨーガにせよ、この種の修行法は例外なく、アスラの思想に由来する可能性がありますが〈注:『密教の瞑想法――五相成身観 後編』参照〉。

 

 五字厳身観用に作成したまとめ画像を下に置きますので、試しに実践してみたいと思っている方はご参照ください。


五字厳身観の全体図(その1)

 『●』のポイントに各チャクラの種字と象徴図形を重ね合わせてイメージします。

五字厳身観の全体図(その2)

 『全体図(その2)』では、密教の解説本から拝借した五字厳身観の図を加えています。

 『全体図(その1)』では、ヒンドゥー教のヨーガやチベット仏教のチャクラのように各チャクラのポイントを小さめに指定していますが、『全体図(その2)』では体の広い範囲で各チャクラをイメージする形式となっています。

 ブログ主としては「どちらもでもよい」という解釈をしていますが、チャクラの象徴図形を正形(正方形・真円・正三角形・真半円)でイメージしたい場合は『全体図(その1)』、それにこだわらない場合は『全体図(その2)』の観想法が適していると思われます。

※『全体図(その2)』では、各チャクラの形が(水輪を除いて)正形になっていない。

【注釈 5】

 

■注5 マハーバリ(サンスクリット語:महाबलि/Mahābali )

 ヒンドゥー教の神話では悪魔とも呼ばれるアスラだが、神話において必ずしも悪く描かれているわけではない。

 神々であるデーヴァを打倒し、三界(天界・地上界・地下世界)の征服に成功したアスラ王の中には、名君として知られた者もいた。

 その1柱であるマハーバリの統治は「喜びに満ち、世界はあまねく光り輝いて富にあふれ、三界のどこにも飢える者はいなかった」という。

 

 上記のように大王・名君ともいえるマハーバリだが、最終的にはヒンドゥー教の大神ヴィシュヌの化身である矮人ヴァーマナに欺かれ、国を奪われてしまった。

補足と応用(?)

胎蔵曼荼羅の胎蔵大日如来(中央)

 大日如来には2つの相があるといわれています。

 1つが『智』の面を表す金剛界(実在の世界)の大日如来であり、もう1つが『理』の面を表す胎蔵界の大日如来であるとされています。

 真言宗の教義では両者は不可分とされ、これを『金胎不二(こんたいふに)』と呼びます。

 

●画像引用 Wikipedia

楔形文字で表記した五大元素

 画像の楔形文字はアッカド語のものです。

 アッカド語はメソポタミアで話されていた最も古いセム語派の言語であり、メソポタミア地域の共通語でした。

 

 旧約聖書創世記において、『バベルの塔』を建設したとされるニムロドの時代は「全地が1つの言語、同じ言葉であった時のこと」と記されていますが、『1つの言語』とはアッカド語のことを指しているかもしれません。

 

 メソポタミアを統一した(聖書的にはニムロドの国とされる)バビロン第1王朝の時代(紀元前1830年~紀元前1530年頃)、飛び抜けた文明国家といえば(古代エジプトを除けば)アッカド語を主要言語としていたバビロニアくらいしかなかったからです。 

※ なお、『バベルの塔』とはメソポタミアの聖塔『ジッグラト』のことといわれています。

  五字厳身観は大日如来との合一を目指すイメージトレーニングの1つですが、これを実践したからといって(即座に)何か神秘体験をしたり、超感覚を身につけられたりするということはないと思われます。

※また、この記事で掲載した五字厳身観は、印相の部分を書いていないので完全版というわけではありません。

 

 そもそも、こうした観想法が本当に人間の秘められた能力を開発する方法となり得るのか――それは実践者でなければ語れないことでしょう。

 科学的に解明できることではないのですから。

 

 ただ、密教の観想法が長きに渡り密教僧の間で実践されてきたのは、そこに意味を見出したからではないでしょうか。

 先述した通り、チャクラ(エネルギーセンター)の概念は、ヨーガや氣功(道教)などでも見られるので、五字厳身観も続けていければ、実践者になんらかの変化をもたらすのかもしれません。

 あるいは格闘技・武術における筋トレ(基礎トレーニング)のように、こうした観想法を事前に行っていた方が、密教呪術の効果が出易いと、密教僧たちは感じていたのかもしれません。

※ボクシングで例えるなら、筋トレを積み重ねることでより強力なパンチを打てるような感じでしょうか……。

 

 なお、五字厳身観のように『地・水・火・風・空』の五大元素の文字を観想するという構造は、他言語でも可能となります。

 オカルト的遊び(実験?)――というわけではありませんが、メソポタミアの言語であるアッカド語版の五字厳身観も作成してみました。

 アッカド語も『地・水・火・風・空』をそれぞれ1つの単語で表記していたので、当て嵌めることができたのです。

 内容は以下の通り。

 

●erṣetu(エルツェトゥ/大地)

●ⅿû(ムー/水)

●išātu(イシャートゥ/火)

●šāru(シャール/風)

●šaⅿû(シャムー/天空)

 

 サンスクリット語は『真言(=マントラ)』として祈祷(呪術)にも使われる言語ですが、それよりも古いメソポタミアの言語・文字にも、我々が思いもよらない神秘的なパワーが秘められているかもしれません。

 

 また、(個々人の気持ちの問題となりますが)観想に当てる文字が異なる分、こちらであれば仏教(密教)的な思想・戒律に囚われる必要がないような気がします(?)。

 五字厳身観に興味を持たれた方は、こちらも試してみては如何でしょうか。

 

 ( ̄▽ ̄) ニヤリ

  

 このような観想法がある密教やヨーガには、『プルシャ(原人/宇宙的な巨人)〈注6〉』の概念が背景にあると思われます。

 両者に共通するチャクラの思想は、人体をミクロコスモス(小宇宙)、世界をマクロコスモス(大宇宙)と解釈して関連づけ、対応させる(人間と宇宙を繋がりのある存在として定義する)ことで成り立つのです(マクロコスモスとミクロコスモスの対応)。

 

 こうした世界観も大元を辿れば、メソポタミアに行きつく可能性がありますが、長くなるのでその詳細はまた別の機会に語りたいと思います。 

 

 ブログ主は神秘主義を研究していますが、僧侶ではないので、本記事の内容はあくまでも参考情報としてお考えください。

  密教や神秘主義の一端を理解する上で、本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。


アッカド語版の五字厳身観(?)

●楔形文字の画像引用 Cuneiform sign list

【注釈 6】

 

■注6 プルシャ

 古代インドの聖典(讃歌集)――『リグ・ヴェーダ』の『プルシャ(原人)の讃歌』では、プルシャという原初の巨人の身体から太陽や月、神々や人間など世界を構成する全てが生まれたという。

 この神話は密教にも影響にも与えたと見られ、主尊である大日如来は『宇宙の真理』にして『宇宙そのもの』という汎神論的な仏とされている。

 

 プルシャと同型の神話的存在が、中国神話の『盤古(ばんこ)』、北欧神話の『ユミル』であり、こうした巨人または巨大生物を解体する形式の創世神話は、遡ればバビロニア神話の原初の女神ティアマトが先駆である。

 バビロニア神話の主神マルドゥクは、原初の女神であるティアマトを殺害すると、その身体から世界を創造した。

 また、ティアマトの息子で彼女の軍団の長とされたキングーを殺害し、その血から人間を創造したことになっている。

 

 この神話は、世界(宇宙)がティアマト、人間がティアマトの息子キングーであること(人間がキングーの因子を有していること)を示しているともいえ、この神話より遥か後に考えられた『マクロコスモスとミクロコスモス』という思想との関連も見出すことができるのである。

※『ティアマト(親)⇒世界=大宇宙(マクロコスモス)』と『 キングー(子)⇒人間=小宇宙(ミクロコスモス)』という対応。

参考・引用

■参考文献

●和訳 大日経 宮坂宥勝 著 東京美術

●『大日経』にみられる諸儀礼について 「五字厳身観」と「六月念誦」(論文) 蓮舎経史 著

●三角五輪塔の起源と安禅寺昆慮遮那五輪率塔婆(論文) 内藤栄 著

●仏教へのいざない

●リグ・ヴェーダ讃歌 辻直四郎 訳 岩波文庫

●ヒンドゥーの神々 立川武蔵・石黒淳・菱田邦男・島岩 共著 せりか書房

●梵和大辞典  荻原雲来 編纂 講談社

●A Sanskrit English Dictionary M. Monier Williams 著 MOTILAL BANARSIDASS PUBLISHERS PVT LTD

●チャクラバイブル パトリシア・マーシア 著 ガイアブックス

●SUMERIAN LEXICON JOHN ALAN HALLORAN Logogram Publishing

●A Concise Dictionary of Akkadian Jeremy Black、 Andrew George、Nicholas Postgate 編  Harrassowitz Verlag

●楔形文字を書いてみよう読んでみよう―古代メソポタミアへの招待 池田潤 著 白水社

●古代オリエント集(筑摩世界文學体系1) 筑摩書房

●古代メソポタミアの神々 集英社 

●旧約聖書Ⅰ創世記 月本昭男 訳 岩波書店

●神秘のカバラー ダイアン・フォーチュン  著 大沼 忠弘 訳 国書刊行会

 

■参考サイト

●Wikipedia

●ニコニコ大百科

●ピクシブ百科事典

●コトバンク

●goo辞書

●Cuneiform sign list

●Akkadian Dictionary

●地球のことば村

●CELESTIA

●古寺散策らくがい庵

●アヴァンギャルド精神世界

●高野山-御朱印

●海上交易の世界と歴史

●飛不動尊龍光山正宝院ホームページ

●Mahavatar Babaji University