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ヴリルの巫女――マリア・オルシックの神話

ヴリル協会の霊媒師『マリア・オルシック』について

マリア・オルシック

(――の写真とされるもの)

𒉡画像引用 FANDON  

トゥーレ協会の紋章

𒉡画像引用 Wikipedia

メソポタミアの神々

 『マリア・オルシックの神話』によると、アルデバラン星人はシュメール人とドイツ人の祖先になるそうです。

 

𒉡画像引用 Wikipedia

ナチス製UFOの試作機?

 陰謀論には、ナチスがUFOを開発しており、それを担当していたのがヴリル協会だったという話があります。

 また、ヴリル協会とは別に、ナチス親衛隊(SS)の内部に設置された『E4』という部門も、UFO開発を担っていたとか。

 ヴリル協会が開発したUFOは7種類・17機があり、そのコードネームには『ヴリル』という名称が与えられたといわれています(E4が開発したUFOのコードネームは『ハウニヴー』)。

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 ( º дº)<「それだけの技術力があるなら、連合国に負けていなかったのでは?」

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――というツッコミはしない方が、この種の話は楽しめそうです 。

 

𒉡画像引用 FANDON 

 今回は、『イルミナティカードとアーリア主義』というシリーズ記事の番外編として、『マリア・オルシック(Maria Orsic)〈注1〉』という女性に纏わる話をテーマにしました。

 

 マリア・オルシックは、ナチスを支援した秘密結社の1つ『ヴリル協会ドイツ語:Vril-Gesellschaft/英語:Vril Society)』の霊媒師といわれ――

 

「ナチスの権力はオカルトへの執着とその力のうえに成り立っている」

 

――という類の現代神話において、かなりの有名人となっています。

 ヴリル協会は『ヴリル(vril)』と呼ばれる神秘的なエネルギーの研究する秘密結社であり、マリア・オルシックはその中心人物だった――と、都市伝説界隈では紹介されていますが、実態はどうだったのでしょうか……。 

 諸説はありますが、まずは彼女に纏わる話を以下に紹介します。

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 マリア・オルシックは、父親はクロアチア、母親はウィーン出身のドイツ人であり、1895年年10月31日にザグレブ――当時はオーストリア・ハンガリー帝国の都市――で生まれた。

 父親は『トミスラフ(Tomislav)』というザグレブ出身の建築家、母親は『サビーネ(Sabine)』というバレリーナ〈注2〉だったという。

 

 マリアは、第1次世界大戦後に活発化した『汎ゲルマン主義』――ゲルマン民族の団結と世界制覇達成を主張する思想・運動――に幼い頃から従事していた。

 1919年になると、彼女は婚約者と共にミュンヘンに移り住み、『トゥーレ協会(ドイツ語:Thule-Gesellschaft/英語:Thule Society)』と接触した。

※トゥーレ協会はナチスの母体となった秘密結社〈『イルミナティカードとアーリア主義 その3』参照〉。

 

 1922年、マリアは数人の女友達〈注3〉と共に『アルドイチェ・ゲゼルシャフト・フュア・メタフィジック(Alldeutsche Gesellschaft für Metaphysik)/意味:全ドイツ形而上学協会(通称:ヴリル協会)』というサークルを結成した。

 彼女たちは、女性のショートヘアが主流だった当時の流行に反し、とても長い髪を(時にはポニーテールに結び)伸ばしていた。

 この理由としては、長い髪が地球外知的生命体(宇宙人)や高次元の世界と交信するためのアンテナの役割を果たすからだといわれている。

 この髪型は、ヴリル協会に所属する女性たちの特徴となった。 

 

 ヴリル協会の目的は、霊能力によってヴリルの知識を得て、ナチスの利益のためにその情報を提供することだった。

 その中でも、マリアは高い霊能力を買われ、やがてアドルフ・ヒトラーの側近にまでなったという。

 

 マリアたちが交信したのは、地球から約67光年離れたアルデバラン星系の惑星『Sumi-Er(スミ・エァ)』の住人である。

 『Sumi-Er(スミ・エァ)』の人々は、アーリア系人種のような容姿をした『スーパーマン(super-men)』や『スーパーウーマン(super-women)』だったが、『堕落した者たち』もいて、彼らは『スミ・アン(Sumi-An)』と呼ばれる『ゲットー(強制隔離居住区)の惑星』に永久追放された――これが地球である。

 マリアに対し、『アルデバラン星人〈注4〉』は、自分たちがシュメール人とドイツ人の両方の祖先に当たると告げ、さらに――

 

●故郷から追放されたアルデバラン星人が地球に降下し、約500万年前に古代メソポタミア文明を築いた。

●いにしえの世界を滅亡させた大洪水を生き延びた者たちは、アーリア人の祖先だった。

 

――とも語った。

 マリアは、惑星『Sumi-Er(スミ・エァ)』からのメッセージと詳細な技術情報を伝えることができた。

 彼女の働きのおかげで、ドイツ軍は恒星間航行が可能な『空飛ぶ円盤(ナチスのUFO)』を試作することが可能になった。

 こうして1922年に開発されたのが『JFM(Jenseitsflugmaschine)/異世界飛行機械)』と呼ばれるミュンヘン・デバイス――ヴリルによって稼働する最初の『ナチスのUFO〈注:左画像参照〉』だった。 

 

 しかし、この超兵器の生産を本格的に開始する前に、ナチスは敗色濃厚になってしまった。

 この段階に至り、ヒトラーはマリアたちに対して試作機のUFO(ヴリル7号機)――超光速宇宙船:ヴリル・オーディン号(the Vril-Odin, a faster-than-light starship)――によるアルデバラン星系への航行を命じた。

 その目的は、アルデバラン星人に援軍を依頼することだった。

 そして1945年3月11日、マリアは――

 

「nieman bleibt hier(nobody stays here/誰もここに残らない)」

 

――と書かれた意味深なメモを残し、ドイツから姿を消した。

 

 このように、マリア・オルシックは遠い星へ旅立ったといわれているが、1945年の敗戦時にヒトラーと共に南極アルゼンチンに逃れたという説〈注5〉もある。

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 どうでしょうか…………ブロンド髪の美女が織りなす神秘的かつドラマチックな話だと思いませんか?

 これだけで創作のネタになりそうな感じですね。

 

 しかし、この話は、一体どこまでが真実なのでしょうか。

 そもそも、話の出所はどこなのでしょうか。

 次章では、それらのことについて探ります。


【注釈 1~5】

 

■注1 マリア・オルシック(Maria Orsic)

 マリア・オルシックの表記については、ドイツ語では『Maria Orsitsch(マリア・オルシッチ)』、クロアチア語では『Marija Oršić(マリヤ・オルシッチ)』となる。

 

■注2 父親は『トミスラフ(Tomislav)』~ 母親は『サビーネ(Sabine)』というバレリーナ

 『マリア・オルシックの神話』によると、父親は『トミスラフ(Tomislav)』というザグレブ出身の建築家であり、彼はウィーンに旅行した際に『サビーネ(Sabine)』という若いバレリーナと出会った。

 その後、2人は恋に落ち、結婚してマリアを授かったという。

 マリアが生まれた後、トミスラフは名前をトーマスに変えたとされている。

 

■注3 数人の女友達

 マリア・オルシックは、友人の『トラウテ(Traute)』『シグルーン(Sigrun)』『グードルーン(Gudrun)』『ハイケ(Heike )』と共に自分たちのサークル『アルドイチェ・ゲゼルシャフト・フュア・メタフィジック(Alldeutsche Gesellschaft für Metaphysik)/意味:全ドイツ形而上学協会(通称:ヴリル協会)』を設立した。

 この中でも、シグルーンはマリアに次ぐ『第2の霊媒師』であり、ヴリル協会のメンバーは、身分証明のためにマリアとシグルーンが描かれたメダルを身に着けていたという。

 

■注4 アルデバラン星人

 最近では、アルデバラン星人はプレアデス星人とも呼ばれることがある。

 各宇宙人の呼称については、諸説があるらしい。

 

■注5 ヒトラーと共に南極かアルゼンチンに逃れたという説

 第2次世界大戦末期におけるドイツ劣勢のさなか アドルフー・ヒトラーは妻と共に自殺したとされているが、その一方で、ドイツを脱出し、南極に建造したナチスの基地か、アルゼンチンに逃げ延びたという説もある。

 なお、南極にナチスの基地があるという噂が発生したのは、ナチスの調査団が任務のため南極大陸に上陸したことに起因しているといわれている。 

ヴリルの巫女の真実

マリア・オルシックの合成写真

 ナチスに纏わる陰謀論ではかなりの有名人となっているマリア・オルシックですが、残念ながら、彼女は創作の人物のようです。  

 インターネット上にて散見されるマリアの様々な画像についても、合成であることが明らかになっています〈★参考リンク:Fake image of Maria Orsic〉。

 

𒉡画像引用 emma orsich(YouTube)

ヴィルヘルム・ランディヒ

𒉡画像引用 Babelio

パンフレット『Vril』の表紙

 画像は、ヴァイマル時代末期のベルリンにおいて、小さな出版社『Astrologische Verlag Wilhelm Becker〈注8〉』より刊行されたパンフレット『"Vril" Die kosmische Urkraft・Wiedergeburt von Atlantis(”ヴリル”  宇宙の根源的な力・アトランティスの復活)』の表紙です。 

 

 このタイトルを見ると、なんとなく、現代におけるトンデモ本のようなニオイを感じてしまいます……。

 

𒉡画像引用 Wikipedia(Datei:Vril Urkraft Einband.jpg

 結論から言ってしまうと、『マリア・オルシックの神話』は極めて信憑性が薄いというか、そもそも、マリア・オルシック(および彼女に相当する人物)は実在していなかったそうです。

 ナチスが台頭した時代において、マリアのような霊媒師が実在したことを証明する資料は全く存在しないのです。

 

 イギリスの歴史学者・エクセター大学の西洋秘教の教授『ニコラス・グドリック=クラーク(Nicholas Goodrick-Clarke)』などの識者たちは、以下の旨を述べました。

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●マリア・オルシックが最初に登場したのは1980年代後半に流通したネオナチのビデオテープ(ドイツ語版)、あるいは1990年以降にオーストリアで刊行されたネオナチの書籍。

 

●マリア・オルシックは、ネオナチ系のオカルティスト・作家である『ノーベルト・ユルゲン=ラットホーファー(Norbert Jürgen-Ratthofer)』と『ラルフ・エットル(Ralf Ettl)』の発案である可能性。

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 マリア・オルシックという人物は、ネオナチの作家たちによる創作だった――とはどういうことなのでしょうか。

 ブログ主は、歴史的背景を含め、上記の件について調べてみました。 

 

 ニコラス・グドリック=クラークによると、第2次世界大戦後、『ウィーン・サークル(Wiener Zirkels)/あるいは”ランディヒ・グループ”』と呼ばれるオカルト結社が『秘教的なネオ・ナチズム』を説き、ナチスに纏わるヴリルのイメージを普及させたとか。

 このウィーン・サークルの創始者は、元ナチス親衛隊(略号:SS)の作家『ヴィルヘルム・ランディヒ(ドイツ語:Wilhelm Landig)/生没年:1909年~1997年』でした。

 彼は、ナチスの中でも特に神秘主義に傾倒していた『ハインリヒ・ヒムラー(ドイツ語: Heinrich Luitpold Himmle)』と良好な関係だったそうです。

 

 ナチス時代のランディヒの活動は余り知られていませんが、1945年の終戦時にイギリスの捕虜となり、1947年に釈放されたことはわかっています。

 以後の彼は、『ルドルフ・J・ムンド(ドイツ語:Rudolf J. Mund)』という人物と共に、人種差別の思想とオカルトを融合させたサークルを結成した他、ウィーンにて『フォルクストゥム出版社(Volkstum-Verlag)』を設立し、自著も出版しました。

 

 その彼の代表作が、トゥーレ神話に関係する3部作――『トゥーレに抗する偶像(Bänden Götzen gegen Thule)/刊行:1971年』『トゥーレをめぐる狼の時間(Wolfszeit um Thule)/刊行:1980年』『トゥーレのための反乱 – アトランティスの遺産(Rebellen für Thule – Das Erbe von Atlantis)/刊行:1991年』です。

※この場合のトゥーレ神話とは、アーリア人種至上主義に都合よく解釈されたトゥーレの物語のことです〈『イルミナティカードとアーリア主義 その4(章:神秘のトゥーレ)』参照〉。

 

 これらの小説では、SSの隊員たちが世界政府の樹立を目論むユダヤの権力者たちやフリーメイソンに抵抗する英雄として描かれた他、ナチスに纏わる様々な神話――『運命の槍〈注6〉』『黒い太陽(オカルト的象徴)』『南極のナチス基地〈注7〉』『ヴリルを動力源とするナチスのUFO』――についても言及されました。

 ランディヒなどのウィーン・サークルの活動を引き継ぎ、さらに一般的に知られたヴリルの観念を広めたのが、ネオナチ系のオカルト結社『テンペルホーフ協会

(Tempelhofgesellschaft )』だったと、ドイツの宗教学者『ジュリアン・ストゥルーベ(Julian Strube)』は述べています。

 

 テンペルホーフ協会の最初の出版物『Insight into the Magical Worldview and Magical Processes(魔術の世界観と魔術のプロセスへの洞察)/刊行:1987年』と、『CODE』という極右系の雑誌には、テンペルホーフ協会とウィーン・サークルにて交わされた『ドイツ人のシュメール・バビロニア起源説』についての議論のことが記されていたそうです。

 このテンペルホーフ協会が1992年に刊行したのが『Das Vril-Projekt(英語:The Vril Project/ヴリル・プロジェクト)』――前述した『ノーベルト・ユルゲン=ラットホーファー』と『ラルフ・エットル』の共著――です。

 『Das Vril-Projekt』において「トゥーレ協会とその関連組織の者たちが異星人(アルデバラン星人)とコンタクトし、その技術をドイツ軍に伝えた」という説が主張され、それと共にマリア・オルシックのことも言及されたのです。

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※ユルゲン=ラットホーファーとエットルの主張としては、1930年に刊行されたパンフレット『"Vril" Die kosmische Urkraft・Wiedergeburt von Atlantis(”ヴリル”  宇宙の根源的な力・アトランティスの復活)〈注:左画像参照〉』が、マリア・オルシックの実在を証明するとかなんとか……?

 しかし、このパンフレットにはマリア――あるいは彼女のような霊媒師――のことは記されていません。

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 当初『Das Vril-Projekt』は余り知られなかったのですが、この内容が、陰謀論系の作家『ヤン・ウド・ホーリー(Jan Udo Holey )』に取り上げられると、彼の著著『Geheimgesellschaften und ihre Macht im 20(20世紀の秘密結社とその権力)/刊行:1993年』――1996年までに10万部の売り上げがあったといわれる本――を通じて上記の話が注目を浴びるようになりました。

 

 『Das Vril-Projekt』には「マリアがヴリル協会の設立に関わったこと」と「マリアがアルデバラン星人との交信(チャネリング)を行ったこと」が言及されていましたが、当初は脇役的な扱いだったそうです。

 しかし、(『The Vril Project』以降の)各ナチス神話の書籍、そしてインターネットの諸説を通じて設定が次々に追加され、彼女はヴリルに纏わる物語のヒロインになったのです。


【注釈 6~8】

 

■注6 運命の槍

 『運命の槍』とは、イエス・キリストの死を確認するために刺されたとされる槍のことであり、刺したローマ兵の名前に因み『ロンギヌスの槍』、あるいは『聖槍』とも呼ばれている。

 この槍には、「所有するものに世界を制する力を与える」との伝承がある。

 これに関連して、「アドルフ・ヒトラーの野望は、彼がウィーンのホーフブルク王宮にて聖槍の霊感を受けた時より始まる」といった類の俗説もある。

 

■注7 南極のナチス基地

 第2次世界大戦後、「ナチス・ドイツが南極大陸の地下に秘密基地を作っている」という噂が流れた。

 上記の噂が発生したのは、任務を帯びたナチス・ドイツの調査団が、南極大陸に上陸(1939年1月)したことに起因しているといわれている。

 この噂にUFO話の尾ひれがついたのは、1975年にネオナチのカナダ人が出版した『UFOs:Nazi Secret Weapon(UFO:ナチスの秘密兵器)』の中で書かれている「ハイジャンプ作戦中のアメリカ軍の航空機をナチス・ドイツ軍が墜落させた」という根拠のない報告に基づいている。

 

★参考サイト

ノイシュヴァーベンラント(Wikipedia)

「南極大陸に地下にナチスのUFO基地がある」という長年のうわさの真実とは?

 

■注8 Astrologische Verlag Wilhelm Becker

 『Astrologische Verlag Wilhelm Becker』――名前の意味は『占星術出版社ヴィルヘルムベッカー』――は、ドイツの占星術師『ヴィルヘルム・ベッカー(Wilhelm Becker)』が設立した(占星術などを取り扱うオカルト系)出版社。

 ベッカーが自身の名前を冠したこの出版社は、1930年代後半まで存続した。

『マリア・オルシックの神話』の構造

インド・ヨーロッパ語族の分布

 画像は、ユーラシア大陸におけるインド・ヨーロッパ語族の分布です。

 

𒉡画像引用 Wikipedia

魔術師の朝

 画像は2人のフランス人作家――『ルイ・ポーウェル(Louis Pauwels)』と『ジャック・ベルジェ(Jacques Bergier)』の著書である『The Morning of the Magicians(魔術師の朝)/フランス語の原題:Le Matin des magiciens』の表紙です。

 日本では、『神秘学大全―魔術師が未来の扉を開く』というタイトルで邦訳されています。

 

 この本は、暗号史UFO学ナチスのオカルト錬金術神秘思想、そして『ディ・グロッケ(ナチスの秘密兵器)』などのテーマを取り上げ――与太話的な要素が多いながらも――陰謀論マニアの間でしばしば参照されています。

 

𒉡画像引用 Wikipedia

ゼカリア・シッチン

𒉡画像引用 The Ofiicial Website of Zecharia Sitchin

アルデバラン

 アルデバラン星人にナチスへの援軍を要請するため、マリア・オルシックは、地球から約67光年離れたアルデバラン星系へ旅立ったといわれています。

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 ( º дº)<「マリア・オルシックはチャネリングでアルデバラン星人とコンタクトできたはずなのに、なぜナチスは、彼女にその方法で援軍要請をさせなかったのか?」 

――というツッコミはしないように。 

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 ネオナチの予言によると、1992年~2005年の間にアルデバラン星人の遠征軍が地球に到来する話が説かれていたそうですが、これは外れてしまいました。

 

 しかし、現在の状況はナチス的な思想が拡大を見せています。

 故に、実はアルデバラン星人は霊的な存在としてすでに地球に飛来し、人々の精神への侵略(=アルデバラン流のナチス化?)を開始している――という解釈ができないこともありません。

 それならば、時期は遅れたものの――

 

「実は予言は当たっていた! ただ、ナチスの勝利がまだ成就していないだけだ!」

 

――という主張(=言い訳)も可能になるでしょう……?

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 ( º дº)<  「もはや、なんでもありだな……」

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𒉡画像引用 Wikipedia

 最初の章で紹介した『マリア・オルシックの神話』について、読者の皆様は違和感を抱かなかったでしょうか?

 もちろん、「話がファンタジー過ぎて荒唐無稽だ」という類の感想はあるでしょう。

 しかし、ブログ主は、それとは別の違和感もおぼえました――それは「この神話がナチス的ではないこと」です。

 

 本ブログの記事『イルミナティカードとアーリア主義 その2』をお読みの方であれば、すでにご存じかもしれませんが、ナチスが台頭した時代は、アーリア主義(アーリア人種至上主義)が全盛期でした。

 ここで言うところのアーリア人〈注9〉とは、アーリアン学説に基づき『インド・ヨーロッパ語族を使用する民族』を指しています。

 そのため、多くのナチス党員は、アジア系でも(同じインド・ヨーロッパ語族に属する)インド人をアーリア人と見なしていたそうですが、メソポタミア文明を築いた人々もアーリア人だと主張する話は聞いたことがありません。

 しかも、人種不明なシュメール人〈注10〉はともかく、その後を引き継いでバビロニアを築いたのは、セム系アムル人でした――ナチスの弾圧対象となったユダヤ人もセム系です。

 故に、ナチスがそのような人々をアーリア人扱いするのはするのは、ちょっとあり得ないことではないでしょうか。

※もっとも、上記の歴史が当時のドイツにおいて知られていたかどうかは不明ですが。

 

 また、ナチス・ドイツの時代において、宇宙人のことがあれこれ語られた記録もありません。

 この時代に流行した神秘思想神智学』では、レムリアアトランティスという超古代文明のことは言及されていましたが、その文明が宇宙人によって創造されたという話〈注11〉はありません。

 故に、『マリア・オルシックの神話』は、ナチス的傾向からかなり離れているといえるのです。

 

 『マリア・オルシックの神話』の原点となったのは、『ジャック・ベルジェ( Jacques Bergier)』と『ルイ・ポーウェル(Louis Pauwels)』の著書『The Morning of the Magicians(魔術師の朝)/フランス語の原題:Le Matin des magiciens/邦訳:神秘学大全/刊行:1960年』です。

 この著書において、初めて『(力のある秘密結社としての)ヴリル協会』――神智学協会薔薇十字団トゥーレ協会と密接な関係があるナチスにとっての重要な組織――が主張されたのです。

 上記の話を土台にして『マリア・オルシックの神話』は創作されました。

 

 『The Morning of the Magicians(魔術師の朝)』自体には、マリア・オルシックは登場しませんが、古代宇宙飛行士説を臭わせることは書かれていました。

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※古代宇宙飛行士説について簡単に述べると、 古代に宇宙人が地球に飛来して人間を創造し、さらに文明を授けたという疑似科学的な主張です。

 この説は、『エーリッヒ・フォン・デニケン(Erich von Däniken)』よって詳細な話〈注12〉が語られました。

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 とはいえ『The Morning of the Magicians(魔術師の朝)』では、古代宇宙飛行士説とメソポタミア文明を結びつける説が強調されていたわけではありません。

 つまり『マリア・オルシックの神話』において、初めて『ナチス・古代宇宙飛行士説・メソポタミア文明』という3つの要素が揃ったのです。

 

 古代宇宙飛行士説とメソポタミア文明を結び付けた作家として有名なのは『ゼガリア・シッチン(Zecharia Sitchin)〈注13〉』であり、彼の書著は世界中で数百万部も売れたといわれています。

 最初の書籍『The 12th Planet(第12惑星)』は1976年に刊行され、1980年に『The Stairway to Heaven(天国への階段)』、1985年に『The Wars of Gods and Men(神々と人間の戦争)』が続きました。

 

 ということは、テンペルホーフ協会において『ドイツ人のシュメール・バビロニア起源説』が議論されていた1987年までには、すでにシッチンの説も各ネオナチに知られていたことでしょう。

 ここからさらに推測すると、『マリア・オルシックの神話』は、それまでのナチス神話に加え(ユダヤ人である)シッチンの説も取り入れられて創作された――という極めて皮肉な可能性が浮かび上がってくるのです。

 

 『マリア・オルシックの神話』が作られるまでの歴史をまとめると、以下のようになります。

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①1960年~

 『The Morning of the Magicians(魔術師の朝)』より、(重要な秘密結社としての)ヴリル協会のことが広められる。

 また、古代宇宙飛行士説のことも仄めかされる。

 

②1968年~

 エーリッヒ・フォン・デニケンにより、詳細な古代宇宙飛行士説が広められる。

※なお、『ナチスのUFO』について言及したヴィルヘルム・ランディヒの著書の刊行は、1970年代以降のこと。

 

③1976年~

 ゼカリア・シッチンにより、『アヌンナキメソポタミア神話の神々)』を宇宙人として定義する古代宇宙飛行士説が広められる。

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 この流れを見ると、ネオナチが『マリア・オルシックの神話』を創作するための『材料』がすでに準備されていたことがわかります。

 結果的には、マリア・オルシックというアイドルを通してナチス神話が広まったことを考えると、ネオナチの宣伝としては、一定の成功を収めたといえるのではないでしょうか。

 

 ちなみに、マリア・オルシックの生みの親――ユルゲン=ラットホーファーとエットルの著書やビデオによると、使命を帯びてアルデバラン星系に旅立ったマリアは、無事に目的地に辿り着いたそうです。

 マリアを通してナチスからの要請を受諾したアルデバラン星人は、地球への遠征軍を派遣――それは1992年~2005年の間に地球に到着し、かつての大戦を再開させて『新生ナチス・ドイツ』に勝利をもたらすという予言も語られていたとか………。

 

 結局、この予言は見事に外れてしまいましたが、ブログ主としては(予言の当たり外れよりも)ナチスが勝利するための最後の秘策(?)が『宇宙人頼み』になっていることの方が気になりました――この点が、現代の『神頼み・救世主頼みな終末予言』と被っていて苦笑してしまったのです。

 

 上記の話はネオナチの創作ですが、そこには彼らの願望が含まれていた可能性もあるでしょう。

 仮に、ナチスの後継者といえる者たちがこんな他力本願な気持ちを持っていたとしたら、アドルフ・ヒトラーは、冥界で嘆いているかもしれませんね。

 結果がどうであれ、彼は徒手空拳から歴史を揺るがすほどの権力者にまで成り上がったのですから。

 

 個人的に思うこととしては、ネオナチの志士たち(?)は『ヒトラーの終末予言(五島勉 著)〈注14〉』に示されている通り――

 

「我々(ネオナチ)は、ユーベルメンシュ(超人)やゴットメンシュ(神人)〈注15〉に進化し、世界征服を成し遂げる!」

 

――とでも豪語してくれた方が、より面白味………いえ、畏怖の念を人々に抱かせるのではないでしょうか。

 

┐(゚~゚)┌ しらんけど


 【注釈 9~14】

 

■注9 アーリア人

 現代における(広義の)アーリア人とは、インド・ヨーロッパ語族の中でもインド・イラン語派に属する人々とされているが、19世紀~20世紀前半においては『インド・ヨーロッパ語族を使用する民族(全般)』を指すようになっており、白人至上主義とも密接な関係があった。 

 例えば、白人至上主義を提唱した小説家『アルテュール・ド・ゴビノー(Joseph Arthur Comte de Gobineau)/生没年:1816年7月14日~1882年10月13日』は、「アーリア人は白色人種の代表的存在であり、主要な文明は全て彼らが作った」という主張をしている。

 

■注10 人種不明なシュメール人

 シュメール人は人種不明といわれているが、自分たちのことを『黒い頭(の者)(楔型文字:𒊕𒈪/saĝ-gi6)』と呼んでいたので、少なくとも(金髪碧眼の)白人系ではないと考えられる傾向にある。

※つまり、ナチスが考えるようなアーリア人とは異なることになる。

 

 ただし、シュメールの遺跡から出土された『エビフ・イルの像』――都市『マリ』の代官の彫像――の目がラピスラズリ製であり、碧眼を表現しているようにも見えるので、シュメール人の支配層には白人系の者たちがいた可能性も考えられる。

 

■注11 レムリアやアトランティスという超古代文明 ~ 宇宙人によって創造されたという話

 近代神智学の創始者の1人である『ヘレナ・P・ブラヴァツキー(Helena Petrovna Blavatsky)』は、その著書『シークレット・ドクトリン』において、人類の進化を(未来の分も含めた)以下の7段階に分けた。

 

●第1根源人種――ポラリアン(Polarian)

●第2根源人種――ハイパーボリア人(Hyperborean)

●第3根源人種――レムリア人(Lemurian)

●第4根源人種――アトランティス人(Atlantean)

●第5根源人種――アーリア人(Aryan)

●第6根源人種――未来人

●第7根源人種――未来人(完全にスピリチュアル的な存在)

 

 これらは『根源人種(Root race/ルート・レイス)』と呼ばれている。

 第1の根源人種は肉体や性別がないアストラル(またはエーテル)的な存在とされ、進化の段階が進むごとに、次第に現生人類のような姿になっていったと説明されている。

 第1の根源人種は「太陽神が七大天使に命じて創らせた」という霊的存在とされているものの、これは、肉体を持った『宇宙人=地球外知的生命体』が地球の文明を創造したという類の話ではない。

 

■注12 『エーリッヒ・フォン・デニケン(Erich von Däniken)』よって詳細な話

 スイスの実業家だったエーリッヒ・フォン・デニケンの著書『Erinnerungen an die Zukunft(未来の記憶)/刊行:1968年』が1970年代に世界的ベストセラーとなり、古代宇宙飛行士説が広まることになった。

 彼のアイデアは、日本において『ノストラダムスの大予言五島勉 著)』に象徴される終末論や『ユリ・ゲラー(Uri Geller)』の超能力が話題を集めた時期と重なり、1970年代におけるオカルトブームの一翼を担った。

 デニケンの各著著では以下のことが記されている。

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●巨大な考古学遺跡やオーパーツは、宇宙人の技術で作られた。

●宇宙人は、類人猿から人類を創った。

●世界各地に残る神話の神々は、宇宙人を神格化した存在だった。

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 (真偽はともかく)現代まで語られている古代宇宙飛行士説の基本的な設定は、すでにデニケンの主張で完成されていたといえるだろう。 

 

■注13 ゼガリア・シッチン(Zecharia Sitchin)

 ゼガリア・シッチンは、ユダヤ系アメリカ人の著述家であり、彼の著書とその神話解釈を信じる複数の作家たちにより、ネフィリムはメソポタミア神話の神々――シッチンの著書では特に『シュメール神話の神々』であると強調された――『アヌンナキ』であるという説が広められた。

 彼の主張を並べると、概ね以下の通りになる。

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●太陽系内には、『ニビル』と呼ばれる長い楕円形軌道を移動する天体が存在する。

●ニビルは火星と木星の間にあった『ティアマト』という惑星と衝突し、地球・(火星と木星の公転軌道間にある)小惑星帯を形成した。

●シュメール神話において『アヌンナキ』と呼ばれる神々は、旧約聖書エノク書に登場する『ネフィリム(あるいは堕天使グリゴリ)』に相当する。

●ニビルを故郷とするアヌンナキたちは、45万年前の地球に降り立ち、金などの鉱物資源を探索した。

●アヌンナキは、自らに代わる労働者として、自分たちの遺伝子と、地球にいた『ホモ・エレクトス更新世に生きていたといわれるヒトの生物)』の遺伝子を掛け合わせて人類を創造した。

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 シッチンの説は、科学者、歴史家(シュメール学者・東洋学者アッシリア学者を含む)、人類学者などから疑似科学偽史と批判されているものの、インターネットの中心にその話は未だ広められている。

 

■注14 ヒトラーの終末予言(五島勉 著)

 五島勉の著書『1999年以後 ヒトラーだけに見えた恐怖の未来図/刊行:1988年10月』――改題版『ヒトラーの終末予言 側近に語った2039年』――によると、人類の中から『ユーベルメンシュ(超人)』が現れ、21世紀では彼らが世界・気候・人間・戦争などを治めることになるという予言を、ヒトラーは語っていた(とされている)。

 さらに2039年1月になると、人類の一部が神に近い生物『ゴッドメンシュ(神人)』に進化するという。

 また、進化できなかった人類は、完全に受動的で機械的な反応しか示さない『ロボット人間』になるとも予言されている。

 

■注15 ユーベルメンシュ(超人)やゴットメンシュ(神人)

 五島勉の著書『1999年以後 ヒトラーだけに見えた恐怖の未来図(改題版:ヒトラーの終末予言 側近に語った2039年)』では、超人がドイツ語で『ユーベルメンシュ(Übermensch)』となっていたのに対し、神人の方は『ゴットメンシュ(Gottmensch)』ではなく『ゴッドメンシュ(God mensch)』と、英語とドイツ語を混ぜて表記されていた。

 この辺りのことは、五島勉が言葉のニュアンスを日本人向けにわかり易く伝えるためにそうしただけかもしれないが、神人をドイツ語で表記するなら『ゴットメンシュ(Gottmensch)』の方が正確である。

参考・引用

■参考文献

●来るべき種族 エドワード・ブルワー=リットン 著 小澤正人 翻訳 月曜社

●"Vril" Die kosmische Urkraft・Wiedergeburt von Atlantis Johannes Täufer 著

●神秘学大全 ルイ・ポーウェル 著 ジャック・ベルジェ 著 伊東守男 翻訳 サイマル出版会

●シークレット・ドクトリンを読む ヘレナ・P・ブラヴァツキー 著 東条真人 翻訳 トランス・ヒマラヤ密教叢書

●Black Sun: Aryan Cults, Esoteric Nazism and the Politics of Identity Nicholas Goodrick-Clarke 著

●アーリア神話 レオン・ポリアコフ 著 アーリア主義研究会 翻訳 法政大学出版局

●アーリヤの男性結社―スティグ・ヴィカンデル論文集

 スティグ・ヴィカンデル 著、前田耕作 編集、 Stig Wikander 原著、檜枝陽一郎 訳、与那覇豊 訳、中村忠男 訳 言叢社 

●エッダ―古代北欧歌謡集 谷口幸男 翻訳 新潮社

●いちばんわかりやすい 北欧神話 杉原梨江子 監修 じっぴコンパクト新書

●The Secret History of the Reptilians:レプティリアンの秘史 著者: Scott Alan Roberts 

●北極の神秘主義 ジョスリン・ゴドウィン 著、松田和也 翻訳 工作舎

●The Secret History of the Reptilians Scott Alan Roberts 著

●失われたエイリアン「地底人」の謎 飛鳥昭雄、三神たける 著 ムー・スーパーミステリー・ブックス

●失われた地底人の魔法陣「ペンタゴン」の謎 飛鳥昭雄、三神たける 著 ムー・スーパーミステリー・ブックス

●ヒトラーの終末予言 側近に語った2039年 五島勉 著 祥伝社

 

■参考サイト

●Wikipedia

●WIKIBOOKS

●Wikiwand

●Weblio辞書

●ニコニコ大百科

●ピクシブ百科事典

●コトバンク

●goo辞書 

●VISUP - RSSing.com

●babelio

●Atlantipedia

●goodreads

●editionsethos

●Reddit(mikedash)

●FANDON

●emma orsich(YouTube)

●同人用語の基礎知識

●Babelio

●カラバイア

●Lani

●Gigazine

●ヘブライの館2

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